-
事業承継の専門家より、失敗しない事業承継のポイントを解説します。
前回のコラムで、事業承継の失敗のひとつ「後継者が主体者になっていない」ということについて触れましたが、今回は、別の失敗例のひとつで、一番問題になりやすい「関係者の思いがすれちがっている」について、事例を踏まえてお伝えします。
失敗の理由
関係者の思いがすれちがっている
事例
とある農業法人(以下「当社」)の社長のAさん69歳。
息子で後継者のBさんは39歳で、10年前に就農して技術を習得してきました。
当社には、社長Aの弟のXさん、甥のYさんも働いていました。
①そんな中、社長のAさんは、腰も悪くなり体力的にもきつくなってきたので、息子のBさんに代表権を譲る決意をしました。
Aさんは、地元の経営相談員や税理士などに相談しながら、ちょうど70歳になるときに事業承継できるように準備を進めていたのです。
②ある日、Aさんは弟のXさんから話があると呼び出されました。Xさんの話は、Bさん(Aさんの息子)が代表になるのは反対だということでした。
物覚えが悪いし、技術力もまだまだ、素行もよくないからという理由でした。それだけでなく、Xさんは「代表は、我が息子Yの方が向いている」と言い出したのです。
③事業承継の準備をして、あとは手続きを済ませるだけの状態にしていたつもりだった社長のAさんは寝耳に水のことだったのですが、もう決めたことだからと押し切って代表交代を進めたのでした。
手続き自体は、準備もしていたこともありスムーズにいったのですが、代表交代以降、社内の雰囲気は悪くなり、親族間でことあるごとに言い争いをすることが増え、小さい会社なのに派閥みたいなものもできてしまいました。
なんとかまだ事業自体は続いていますが、新社長であるBさんは経営することもできず、いつ組織が崩壊するかわからない状態になってしまいました。
対策・解説
なぜこうなってしまったのでしょうか。今回の事例は、関係者の想いがすれ違ってしまった、よくある失敗事例です。
実際に、崩壊の最中の当社に私がヒアリングをした結果、以下のような話をそれぞれ聞くことができました。
Aさん(前社長)
➤ 息子であるBが継ぐのが当たり前だと思っている。
Bさん(後継者・息子)
➤ 自分でいろいろやりたかった。六次化などあたらしい事業にチャレンジしたい。
Xさん(前社長Aさんの弟)
➤ 自分の息子にやらせたい。自分は死ぬまで仕事したい。
Yさん(Xさんの息子)
➤ やりたくない。作業員のままでいい。生産技術を極めたい。
当社の従業員
➤ Yさんが兄貴的なので社長向いていると思う。B社長のようにチャレンジしていって、自分の仕事を増やしたくない。
やはり、それぞれの想いは別々のところにありました。事業承継は、それ自体は手続き的なものですが、そのタイミングには多くの関係者の人生が大きく変わる瞬間でもありますので、それぞれの想いが交錯しやすいのです。
今回の事例は、Aさん(前社長)が関係者の想いを聞いて調整せずに独断で承継の話を進めてしまった結果、承継後に多くの関係者が苦労することになってしまったことが失敗でした。
私も多くの事業承継の場面に立ち合いましたが、私の肌感覚では、事業承継でもっとも問題になるのが、この想いがすれ違ったまま事業承継を進めてしまい複雑にこじらせてしまって後戻りできなくなってしまうことではないかと思います。
事業承継における税金や株式などのテクニカルなところは間違っても何とか修正するこができる可能性は高いのですが、一般に出ている多くの事例を見ても想いのすれ違いは、感情面の対立となり結果的に修正不可能になってしまうことが少なくありません。
では、ではどうすればよかったのでしょうか?それは、関係者同士でそれぞれの想いを自己開示してぶつけあって、全員が納得できる落としどころに合意形成していくことです。
言うは易しですが、これはなかなか難しく骨が折れることです。親族間だとなおさらいいにくいところも多いですし。
しかし、難しいからといって後回しにしていると当社のような状態になってしまう可能性が高いのも事実ですので、覚悟を決めて関係者間で向き合うことをお勧めします。第三者を介在して関係者それぞれの思いを共有するなどすることも、とても有効なので試してみてください。
次回のコラムも、失敗理由について少し具体的に掘り下げていきます。テーマは、事業承継で必要なノウハウは経営者も専門家も持っていない、です。
最後まで、お読みいただきありがとうございます。次回のコラムもよろしくお願い致します。
シリーズ『失敗しない事業承継』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
公開日