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事業承継の専門家より、失敗しない事業承継のポイントを解説します。
前回のコラムで、事業承継の失敗のひとつ「関係者の思いがすれちがっている」ということについて触れましたが、今回は、別の失敗例のひとつで、「事業承継のノウハウは誰ももっていない」について、事例を踏まえてお伝えします。
失敗の理由
事業承継に必要な知識・情報を経営者も専門家も知らなかった
事例
畜産業を営む株式会社山田農場の社長山田和男(仮名)は、70歳。後継者候補として長男の一郎40歳と次男の次郎37歳が会社で働いています。
和男社長は高齢となり先日入院するなど体調がよくないので、そろそろ次の代に渡さなければと思い、昔からお世話になっている顧問税理士に事業承継について相談しました。
事業承継にあたり和男社長の懸念事項としては、これまで利益が継続して出ていたため、相続税が結構かかってしまいそうということでした。他のことは、これまでしっかりと経営をしてきた自負もあり、あまり心配していませんでした。
顧問税理士は、和男社長の懸念をくみ取り、相続税を節税する策をいくつか提案しました。和男社長は、よい提案が出てきたと喜び、これで事業承継は問題ないと安心していました。
また、長男の一郎から「自分が社長をやりたい」という意向を聞いていたので、やらせてみてもよいと思い社長は一郎にやらせることにしました。株式については、「兄弟仲良くしてもらいたい」という思いで、兄弟間で半々で分けることにしました。
そして、事業承継から3年経ち・・・、くすぶっていたいろいろな問題が表面化してきてしまいました。
[兄弟間]
和男社長は兄弟仲良くと思っていたのですが、承継した後から兄弟の関係がぎくしゃくし始め、最近では兄弟間でまったくコミュニケーションをとっていない状態です。弟の次郎は兄に憎しみさえも覚えている様子です。
[親子間]
親子間も悪くなりました。長男の一郎は親である和男の助言なども聞かなくなり、和男をうっとうしいと思い始めています。
[株式]
弟の次郎が株主のひとりとして、長男の一郎の経営にいろいろと難癖をいってくるようになりました。一郎は、そんな次郎を会社から追い出したいと思い始めています。
[組織]
兄弟間の不和により会社の雰囲気が悪くなり、一郎派と次郎派の派閥ができるなど、組織は崩壊状態になってしまいました。
対策・解説
なぜこうなってしまったのでしょうか。それは、キーマンである経営者と、その相談相手となった専門家の事業承継に対する姿勢や考え方に問題があったためです。
今回の事例にあてはめると、具体的には以下の2点があげられます。
ひとつは、経営者である和男が事業承継を甘く見ていた、または知らな過ぎた点です。結果として、打ち手を誤り、問題が拡大しました。
例えば、「兄弟仲良く」のイメージだけで、「兄弟で株式を半々に分ける」という悪い打ち手を実行してしまい、逆に兄弟仲の悪化につながってしまいました。
もうひとつは、昔なじみの顧問税理士が、事業承継にありがちな潜在的な課題を知らな過ぎたため、「承継する」という一時点を捉えた、専門領域におけるテクニカルなアドバイスしか行えなかった点です。
今回のように、その道のベテランで、昔から知っている間柄であったとしても、現経営者を取り巻く人間関係など事業承継全体における重要な課題について理解が及んでいないことにより、経営者からの相談内容だけを頼りに、間違った提案や説明をしてしまう事例は多々あります。
では、どうすればよかったのでしょうか?
まずひとつは、あたりまえですが経営者が事業承継にきちんと向き合って事業承継を知るということです。
そのために関係するたくさんの本を読むことも大事ですし、たくさんの専門家の話を聞くことも大事です。その上で、自社の事業承継の最悪のシナリオをイメージしながら、自分なりの事業承継の形をイメージできるようにするとよいと思います。
次に、その上で自社の事業承継全体をコーディネイトできる専門家に相談するということです。
つまり、事業承継に関わる課題(事業、お金、相続、株式、土地、権利、後継者、親族など)について、全体最適で考えられる専門家に相談するということです。
ただし、そういった専門家はあまりいないため(私の印象では1割もいません)、まずは、身近で最も信頼できる専門家と共に、失敗事例も含めて事業承継に関わる色々な知識や情報をかき集めて、徹底的に検討し、試行錯誤しながら全体最適を考えていくのがよいと思います。
なお、当社(後継者の学校)では全体最適ができる事業承継専門家の育成にも力を入れています。もし、身近に専門家がいなければ、当社にも相談してみてください。
次回のコラムも、失敗理由について少し具体的に掘り下げていきます。テーマは「事業承継は、未来のためにしないと意味がない」です。
最後まで、お読みいただきありがとうございます。次回のコラムもよろしくお願いいたします。
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当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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