今回は、光波長選択型営農発電と光量制限型営農発電の原理の紹介を通じて、科学的根拠に基づいて営農発電を考えることの重要性について解説します。
光波長選択型営農発電
葉緑体が吸収する赤色光と青色光ではなく、他の光の波長を吸収し使用する太陽電池があれば営農型発電を実現できます。
(光波長選択型営農発電のイメージ図)
太陽光には、赤色、青色以外の可視光や紫外線、赤外線が含まれていますが、一般的に使われているシリコン太陽電池は、これらの光を吸収するので、この目的には使えません。
一方、有機薄膜太陽電池、色素増感型太陽電池では、利用する光波長を選択することが可能なので、営農型発電に向いています。また、これらの電池はパネルに透過性を持たすことができるので、赤色光、青色光を透過させ、発電しつつパネルの下で植物を栽培させることができます。
ただし、このような理想的な太陽電池はまだ開発されていませんが、部分的には実現しています。例えば、赤色光とそれより長い波長の光を透過させる太陽電池は
この場合は、青色光は発電に使われてしまいます。光合成で使われる青色光のエネルギー効率は赤色光と比べて低く
しかし、青色光は植物の形態を決めるためのシグナルとして
したがって、作物栽培の現場では、畑の上を光透過型太陽電池で
ただし、光の波長の種類が作物の成分に影響を与えるとの報告も
最近は、作物に含まれる数千種類の成分を同時に調べるメタボロー
(青色光の使われ方のイメージ図)
私の研究室では、赤色光を透過する色素増感型太陽電池を開発して、実験室レベルで植物栽培が可能であることを示しました。
色素増感型太陽電池は構造が簡単で、低コストで作れますが、現時点では、まだ太陽光エネルギーの変換効率が低く、また、耐用年数が短いために、シリコン系太陽電池に比べて、得られるエネルギーあたりのコストが高くなります。
有機薄膜太陽電池は比較的に変換効率が高く、耐用年数も長いのですが、まだ、コストが高いという短所があります。今後の技術開発に期待したいです。
光量制限型営農発電
強い光が苦手な作物の場合、遮光ネットを使って光の強さを調整
遮光ネットの目の粗さを変えることによって、フィルムを透過する光の量を調整することができます。この時、すり抜ける光は回り込むという性質があり、分散するために、ほぼ均一に光が地面にあたります。
太陽電池を一定の間隔で配置して遮光ネットと同じような光透過性を実現できれば、光飽和利用型営農発電が可能になります。 現時点では、このような太陽電池を作製しようとするとコストが高くなります。
(光飽和利用型営農発電のイメージ図)
営農型発電の状況
光波長選択型営農発電や光光量制限型営農発電に利用できるコストに見合う太陽電池はまだありません。しかし、現在、利用可能な太陽電池を使って営農発電に取り組む例がありますので、以下で紹介します。
大学での営農型発電の研究
営農型発電の効率などを本格的に調べた研究例はそんなに多くはありません。数少ない例としては、京都大学附属農場で環境省プロジェクトとして、温室に有機薄膜太陽電池を設置して、トマト栽培への影響を詳細に調べた研究が行なわれました。私もこのプロジェクトに参加していました。
(写真1 提供:京都大学附属農場)
このプロジェクトでは、実用化されたばかりの有機薄膜太陽電池
ソーラーシェアリングの誤解
光飽和を利用した技術として紹介されることが多い方法として、「ソーラーシェアリング」があります。この方法の許認可については、次回のコラムで説明しますが、農林水産省の資料によれば、平成28年度で1,269件の設置申請がありました。
営農型発電の現実的な選択肢として広がっていますが、「光飽和」現象の説明などが正しく理解されておらず、素人判断での方法が広がっているように思います。今後、しっかりとした農業技術として位置付けるのであれば、科学的なエビデンスの取得が必要でしょう。
ソーラーシェアリングという方法は、畑の上空2メータほどのところに、間隔を開けてシリコン太陽電池を配置するというものです。
(写真2、撮影:著者、2013年)
太陽電池パネルによって陰ができるところがあっても、太陽の日
しかしながら、イネのソーラーシェアリングを検証した東京大学の研究では、本来、作物が獲得すべき太陽光エネルギーが作物に届かず、生育が低下しているとの報告があります。
イネの光飽和点は真夏の昼間の太陽光の強さの半分ぐらいですから、かなり遮光してもイネの収量が確保できそうなものですが、実際には遮光した割合の分だけ収量が下がるのです。
なぜ、「光飽和」が誤解されているのか、その背景を説明します。
前回のコラムでの説明の繰り返しになりますが、光飽和点を超える光量は光合成に利用していないのですが、その研究は、「葉を1枚使った」実験によって示されたものです。
(光飽和点のグラフのイメージ図)
ただし、植物の全体をみると、光がよく当たる上の葉で光飽和が起こっても、光が当たりにくい下の葉では光飽和に達していません。上の葉で利用されなかった光は下の葉で光合成に使われるので、植物全体としては極端な光飽和が起こらないことは多くの研究
高校の生物で習う「光飽和」の知識だけがソーラーシェアリング関係者のなかで広がり、現実の作物(植物)で起こっている現象にまでは考えが及ばなかったことが誤解の原因でしょう。
ソーラーシェアリング技術を広げるためには、作物の種類毎の光と収量の関係を農学的に検証して、科学的証拠を積み上げることが大切でしょう。また、国内で多くのソーラーシェアリングの実例があるので、作
次回のコラムでは、ソーラーシェアリングを含めた制度的な課題と今後の展望について紹介します。
本稿は、私が書いた総説論⽂「脱炭素社会のための持続可能な農業– 作物⽣産と再⽣可能エネルギー⽣産の両⽴ –」⽣存圏研究 第15号p.44-52 2019年をベースにしたものです。参考⽂献などの詳細は、この総説をご覧ください。
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