前回のコラムでは、バイオマスである農産廃棄物をメタン発酵させてバイオガスを回収して発電し、さらに、発酵液(消化液)に含まれる肥料成分(特に、リン酸)を循環的に使えば、環境負荷の少ない持続可能な農業に貢献できることを紹介しました。
今回は、農業を行ないながら太陽光発電も行なう(営農型発電)、という考え方を紹介します。これが実現できれば、農家にとっては収入源が増え、農業の抱える様々な問題の解決に繋がる可能性があります。
一方で、作物栽培への影響なども十分に考慮する必要があり、科学的なエビデンスに基づいた進め方が必要になります。 今回のコラムでは、農地で太陽光発電を行なうことのインパクトと技術的な可能性を考えます。
作物生産と太陽光発電を共存させることのインパクト
広大な農地の一部を使って太陽光発電を行なえば、日本が消費する総電力量の多くを賄うことができます。農地は太陽光がよく当たるので太陽光発電には最適な場所です。
住宅の屋根などと比べて、農地は太陽電池を設置するのに適しており、また、まとまった土地として確保できるので、これ以上にいい場所はないでしょう。
日本ではメガソーラパネルを設置する場所は限られており、太陽光発電を普及させるネックになっていますが、農地を利用できれば、太陽光発電の割合を大幅に増やすことができます。
国内の農地面積は450万ヘクタールですが、その10%にメガソーラーを設置すれば、日本の総電力量(年間約1兆キロワット時)の2割程度の発電能力に相当します。
ただ、これは机上の計算であり、具体的に営農型発電を実施するには、多くの課題があります。
そもそも農地で太陽光発電は許されるのか? 許されるとすれば、何を根拠として許されるのか?
たとえ許されるとしても、変動が大きな太陽光由来の電気を電力網に入れるには限界があるので、どうすべきか?
電力網に入らない電気をどのように活用するのか?などなど。
一方で、これらの課題の解決は農業や地域産業の構造を大きく変えることに繋がると考えられます。
2015年頃までは、太陽光発電のコストは化石燃料由来のエネルギーに比べて高かったのですが、今では、太陽電池などの施設の設置、使用後の後始末のコストを含めても、国外では風力発電と並んで最も安いエネルギー源となっています
すでに、営農型発電の一つの方法である「ソーラーシェアリング」は、一部で実施されていますが、この方法の問題点も含めて考えたいと思います。
営農型発電の方法
作物栽培と太陽光発電で共通しているのは、広い面積で太陽光を利用していることです。つまり、両者は競合関係にあるようにみえます。しかし、それらの特性をよく理解すれば、共存させる方法(営農型発電)がみえてきます。
作物とは植物ですので、植物の光合成の特性を理解すれば、営農型発電の二つの方法が考えられます。
光波長選択型営農発電
一つは、光合成に使える太陽光の波長の種類が決まっているとい
(光波長選択型営農発電のイメージ図)
光量制限型営農発電
もう一つは、強い光を受けると光合成の速度がそれ以上に上がらないという特性(光飽和)を利用して、使われない光エネルギーを利用するという考え方です(以下では「光量制限型営農発電」と呼ぶことにします)。
(光量制限型営農発電のイメージ図)
植物の光合成と光の関係
話を進めるまえに、植物の光合成と光の関係を簡単に紹介します。
葉緑体のはたらき
植物の葉の細胞のなかには、ラグビーボールのような形をした葉緑体がびっしりと詰まっています。葉緑体の中には、太陽光を受け取るための色素(葉緑素)がアンテナのように並んでいます。このアンテナは、主に赤色光と青色光を吸収して、そのエネルギーを光合成のための装置に運んでいます。
光合成に使われる青色光に由来するエネルギー量は赤色光よりも低いことが知られていますので、次回のコラムで紹介するように、青色光を制限しても光合成は可能です。
ただし、青色光は、植物の形態を決めるためのシグナルや光の量を感知するセンサーとして使われているので、少量の青色光を赤色光と混ぜることによって、植物体の生育に影響を与えないことが大切です。(余談ですが、植物が緑に見えるのは、葉緑素が緑色光をあまり吸収しないからです)。
(葉緑体のイメージ図)
光飽和現象
一枚の葉に強さの異なる光を当てて、光合成速度を測ると、ある一定の光強度以上では光合成の速度が一定になります。その光強度を光飽和点といいます。
植物の種類ごとに光飽和点は異なっています。日陰の植物では光飽和に達する光量は低く、トマトなどの光を好む作物では高くなります。
(光飽和点のグラフのイメージ図)
光飽和現象は高校の生物の教科書で紹介されているので、知っている方も多いと思います。ただし、植物体全体でも同様な現象が起こると誤解されている方が多いようです。
光飽和現象は一枚の葉で測定したものであり、植物体全体では、光飽和は起こりにくいことが知られています。 植物体全体でみると日陰になって光が当たりにくい下部の葉は光飽和しにくいからです。
全体として光合成が維持できるのは、光が当たる上部の葉から反射や透過した光が、影になった下部の葉にも到達しているためと考えられます。
光逃避運動
少し話は外れますが、光に関して植物が巧妙な仕組みを備えていることを紹介します。植物は、強い光が当たっても平気そうですが、実は違います。
強い光が当たると活性酸素が多く出て、細胞がダメージを受けます。特に、乾燥して、気孔を閉じると、二酸化炭素が供給されなくなり、ダメージが広がります。このダメージは、人間が日焼けするのと同じような仕組みであることが知られています。
動物なら、日陰に入ればいいのですが、植物はそうもいきません。光が強く当たる葉では、光を透過させて、光の害を避ける機構が働いていることが日本の研究者によって発見されました。
弱い光の場合は、なるべく多くの光を受けるように、光の当たる方向に葉緑体がビッシリと並んでいます。しかし、強い光が当たると、光を避けるために、細胞の周辺に葉緑体が張り付くことによって、光を透過させています(光逃避運動)。
(光逃避運動のイメージ図)
葉緑体は細胞内でダイナミックに動いて、光の害を避けているのです。 植物(作物)の種類ごとに光への応答が異なっていますので、営農型発電を考える時には、それらの特性を理解することが大切になります。
次回は、植物の光特性の紹介を通じて、科学的根拠に基づいて営農型発電を考えることの重要性について解説します。
本稿は、私が書いた総説論⽂「脱炭素社会のための持続可能な農業– 作物⽣産と再⽣可能エネルギー⽣産の両⽴ –」⽣存圏研究 第15号p.44-52 2019年をベースにしたものです。参考⽂献などの詳細は、この総説をご覧ください。
シリーズ『農×エネルギー活用による未来志向の地域デザイン』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
公開日