(公益財団法人日本生産性本部 統括本部国際協力部 越後 比佐代)
近年酪農家の集約化・大規模化が進み、酪農家にとってマネジメントや従業員の労務面に関する課題が生じ始めています。人手不足が深刻化する第一次産業において、多くの経営者が「カイゼン」の考え方を取り入れた「働き方改革」に取組んでおり、「カイゼン」による生産性向上は喫緊の課題といえます。
農林水産省の『営農類型別経営統計』によると、酪農業務従事者の一人当たり労働時間(2016年度)は、酪農:年間2,259時間/人、畜産:年間2,056時間/人。製造業のみならず、畜産などの類似業種と比較しても長時間です。
私たち日本生産性本部では日本中央競馬会畜産振興事業を受けて2019年に「酪農家の働き方改革実証調査」を実施し、この労働負担軽減問題の解決に資するため、2件のモデル酪農家における調査結果を基に「酪農カイゼンパッケージ=酪農家の働き方改革のためのガイドブック」を開発しました。
コラム第1回目は、その調査の内容と効果についてご紹介します。
カイゼンとは?
皆さん、「カイゼン」という言葉をご存知ですか。既に職場等で実践されているかもしれませんが、「カイゼン」とは、生産性の向上を目的に、工程や作業の中にムダや危険な要素を発見し、費用をかけずにそれを見直す活動の総称です。
製造業で発祥し進められてきた考え方ですが、近年ではサービス業や農林水産業で活用される事例も出てきています。
カイゼンのメリット
メリットは、以下の点です。
①大型投資を必要とせずに効果を生じ得るため、経済的な余裕が少なくても取り組み易い点
②機械化と比較して成否を検証できるまでの効果が出るサイクルが短く、取り組みを柔軟にカスタマイズできる点
5S+1S、ムダ取り
カイゼン活動のなかに「5S+1S」と「ムダ取り」があります。
5Sとは「整理(Seiri)、整頓(Seiton)、清掃(Seisou)、清潔(Seiketsu)、躾(Shitsuke)」、1Sとは「安全(Safety)」を意味し、それぞれの頭文字Sをとって「5S+1S」と表記します。
「ムダ取り」とは収益性、生産性を高めるための徹底的な業務効率化のために、付加価値を生まないムダを排除することです。
酪農家の働き方改革実証調査
農林水産省の『畜産・酪農をめぐる情勢』によると、労働負担軽減に対する国の施策の方向性は、①飼養方式の改善、②機械化、③外部化の3点であり、これらを「対象(人・牛)」と「活用リソース(既存・新規)」を2軸であらわした結果、下図の右下の象限(星印★)に関する対策が必要と判断し、当事業ではこの象限を対象としました。
そしてヒトに着目した生産性向上活動(カイゼン活動)を通じた労働時間削減のアプローチを構築するために、2件のモデル酪農家において①マネジメント体制、働き方等に関する課題を可視化し、②解決手段として5S等による現場カイゼンを用いた経営カイゼンの導入効果を測定しました。
私たちは、まずモデル酪農家の1日の作業の流れをタイムチャートで可視化し、全体に占める各作業の比率を分析した結果、搾乳が55%と最も比率の高い作業でした。このように占有比率の高い作業に優先的に取り組むと効果を出しやすいため、搾乳作業を主としたカイゼンに取り組みました。
搾乳作業の時間短縮
以下の2つの手段を「赤ベルト作戦」と名付け、作業員が「搾乳時間の長い牛」が一目で分かるように牛の脚に赤ベルトを巻き可視化を試みました。
①搾乳時間の長い牛に優先的にミルカーを取り付け、その牛の搾乳終了を少しでも早くする。
②搾乳時間の長い牛を1つのグループに纏める。
この赤ベルトと①の「優先的に取り付ける」方法を併用して、導入前と導入後の搾乳作業の所要時間(1頭目の開始から最後の1頭の終了まで)を比較した場合、搾乳牛の頭数が12パーセント増加したにもかかわらず搾乳の所要時間に大きな変化はなく、1頭あたりの搾乳時間では約8.1%の時間短縮を実現しました。
次回は、5S+1Sのカイゼン事例を紹介します。
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当該コンテンツは、公益財団法人日本生産性本部の分析・調査に基づき作成されています。
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