(公益財団法人日本生産性本部 統括本部国際協力部 越後 比佐代)
前回は北海道の牧場の5S「倉庫の管理状態(整頓)」の事例をご紹介しました。今回は同牧場のムダ取りの中でも動線(清掃)と手待ちのムダ(搾乳)の事例をご紹介したいと思います。
動線:清掃作業の場合
着目した問題点
牧場において、毎日昼に実施している牛舎清掃時の重機の移動距離は、約7〜8キロメートルでした。下図のとおり、牛舎(灰色のエリア)から削った土を仮置き場(図の右下)へ一時的にプールし、それを仮捨て場(右上)へ運ぶまでが一連の流れです。
<牛舎清掃時の重機の動き(現状)>
長距離化している理由は、①牛舎内の距離や面積に加えて、②ピストン輸送(20回〜50回の往復)することによる移動回数の増加、③牛舎から仮捨て場までの経路(右下のパドックを経由するU字型のレイアウト)という点です。
移動の長距離化によって作業の長時間化を招いているばかりか、燃料使用量への影響も考えられます。
カイゼン案:①動線の変更、②コンベアやピットの設置
<牛舎清掃のカイゼン案①:トラックによる一括輸送活用による重機移動の短縮>
牛舎内での重機の移動距離の削減と糞尿仮置き場から仮捨場までの50回に及ぶ移動・運搬を削減する案として、上図のカイゼン案①(動線の変更)を提案しました。
まずは牛舎中央にトラックを配し、捨てる糞尿を一旦トラックに入れます。これによって牛舎内の重機の移動距離削減に加えて、最後にトラックで仮捨場へ一括輸送することで、その運搬回数も併せて大幅に削減します。
あるいは下図のカイゼン案②のように、トラックの替わりにコンベアやピットを設置する方法も併せて提案します。
<牛舎清掃のカイゼン案②:ピット設置による重機移動の短縮>
手待ちのムダ:搾乳作業の場合
着目した問題点
パラレルパーラーの場合、牛の乳量(搾乳時間)の個体差に起因する牛の手待ちが発生します。
パラレルパーラーは、その構造により同一グループ(当牧場の場合は片側9頭)の総ての牛が一斉入場、一斉リリースという形態になります。一方でグループ内の牛の搾乳時間に個体差があるため、搾乳時間の短い牛は他の長い牛の搾乳が終了するまでパーラー内で手待ちになります。
搾乳作業において付加価値を生み出すのは、搾乳牛にミルカーが取付けられ、搾乳されている時間だけです。「ミルカーの稼働率が生産性を決める」と言っても過言ではありません。
したがって、搾乳牛の手待ち時間が最も大きなムダとなります。
下図は、初回調査時における搾乳時間と牛の手待ち時間を図表化したものです。つまり緑色の部分が牛にとって手待ちのムダとなり、このムダの低減が搾乳のカイゼンにおける重要なポイントです。
<1ロットにおける搾乳時間と搾乳前後の時間分布>
カイゼン案
牛の搾乳時間に関する個体差の分布を調べたものが下図です。搾乳時間を平均すると約5〜6分ですが、10分を超える牛も散見されます。
<搾乳時間に関する個体差の分布>
まずは、次の写真のように、搾乳時間の長い牛の脚に識別用の赤ベルトを巻き、誰でも瞬時に当該牛を認識できるような環境を整えました。
<赤ベルトによる搾乳量の多い牛の識別>
カイゼン案①:搾乳時間の長い牛に対して優先的にミルカーを取り付け、搾乳時間の短い牛の待機時間を短縮する
搾乳時間の長い牛に優先的にミルカーを取り付けることはこれまでも推奨されてきたようですが、実際の調査結果(下図)より、現状ではそれが徹底されていないことが判明しました。
<実際の調査結果>
1つの理由として、搾乳作業者全員が搾乳時間の長い牛を目視で識別できない点(長い牛を把握している方が熟練者に限定されている点)でした。そこで先述の赤ベルトによる”見える化”を開始し、「赤ベルトの牛が来たら優先的に搾乳機を取り付ける」という方針の徹底を開始しました。
この方針の下で、例えば以下のように、最も搾乳時間の長い牛がパーラーに入場した際に前絞りから1分でミルカーの取付けを完了できた場合、当該グループの合計作業時間(入場から退場までの時間)は従前より2分短縮できます。
<ルール適用時のシミュレーション>
カイゼン案②:搾乳時間の長い牛を1グループに集中させることで、搾乳時間の短い牛との混合を避ける
牛をパーラーに追い込む際に、搾乳時間の長い牛を意識的に最初(もしくは最後)のグループに集約させる方法です。この方法を試行していただき、従業員の方々へのヒアリングより”通常よりも30分短縮”という成果を生みました。
しかしこれを毎回行うためには、数名の従業員が高い牛追いスキルを習得する必要があり、「現時点では困難である」との結論に至りました。将来的に、牛舎をさらに細分化できればこの取り組みが可能となり、今後の検討課題であると考えております。
結果として、現時点では上記のカイゼン案①のみを定常的に実施しています。導入前と導入後の搾乳作業の所要時間(1頭目の開始から最後の1頭の終了まで)を比較した場合、搾乳牛の頭数が12パーセント程増加したにもかかわらず搾乳の所要時間に大きな変化はなく、1頭あたりの搾乳時間では約8.1パーセント改善しました。
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