(公益財団法人日本生産性本部 統括本部国際協力部 越後 比佐代)
第7回、第8回では、静岡県の牧場の事例をご紹介しました。今回は北海道の牧場の事例をご紹介したいと思います。
調査対象の酪農家の概要
先ずは、今回紹介する事例調査にご協力頂きました酪農家の概要を紹介致します。
【北海道のA牧場】
牛の数:約400頭
従業員数:10名
牧場やマネジメントの特徴:
社長と奥様が中心で、牧場全体をマネジメントしています。
ほぼ全従業員が牧場内の寮か牧場近隣で生活しており、毎朝9時30分から開かれるミーティングは当日の出勤者全員が出席し、治療牛の朝の状態確認と当日の予定を共有します。ミーティングは社長の奥様が中心となり、幅広い知識を活用され冗談を交えながらも厳しく運営しています。
社長、奥様共に従業員からの信頼が厚く、マネジメントは強固であると感じます。また、ほぼ毎日誰か1名以上が休暇を取得している点も、当牧場の特徴の1つです。
設備については、搾乳は、9頭×2列のパラレルパーラー(牛の後ろ足の間から搾乳機械を装着するタイプ)を採用しています。約200〜230頭の搾乳を準備・掃除を含めて1回あたり3時間弱で行い、毎日3回繰り返します。
牛舎はフリーストール・フリーバーン型で、牛は繋がれることなく、自由に餌を食べたり休んだりしています。
牧草は自前で育成しており、飼料用とうもろこしも、茎や葉をすべて刻んでサイロに入れて漬物(サイレージ)にしています。
倉庫の管理状態の整頓
紹介概要の通り、アットホームな雰囲気の中、様々な情報を全員が共有し、従業員と経営者の厚い信頼感をもってマネジメントが行われていることが良くわかります。
こちらの牧場に対して提案しましたカイゼンは、5S+1Sでは、配電盤等コンセント回りの安全性、倉庫の管理状態(整理・整頓)。ムダ取りでは、搾乳と哺乳時の動線・運搬のムダ、牛舎清掃時の動線、搾乳時の手待ちのムダの7つです。
この中から、今回は倉庫の管理状態の整頓についてご紹介したいと思います。
着目した問題点
先ずは倉庫、パーラー、通路、事務所の必要な物と不要なものを選別し、不要なものは廃棄するという「整理」を行いました。しかし「整理」が完了してもまだ「整頓」に至っていない箇所が何カ所かありました。
例えば、下図のとおり、倉庫(バンガロー)の整理(不要品の廃棄)は完了していましたが、整頓(定位置化)はその途上にありました。
(倉庫内部の整理後の様子)
カイゼン案
整頓することで、整理された状態を維持しやすくなります。「5S」のコラムでも既に述べましたが、整頓における具体的なポイントは、以下のとおりです。
<整頓のポイント>
- 使う頻度にあわせて最適な保管位置を設定する
- その上で「3定」(定位置、定量、定品)が実行できる環境を作る
- 消耗品は先に取得した物から使用すること(先入れ先出し)を基本とし、そのルールを順守できる保管方法を考える
<カイゼン案>
本事例の場合、整頓時の具体的なカイゼン案は、以下のとおりです。
- 使用頻度が極端に少ない物は、別のエリア(倉庫等)に保管する
- 倉庫内の床にラインを引き、物を置くエリアと置かないエリアを明確にする
(上から見た倉庫内のレイアウトイメージ)
- 棚は、使用頻度の高い物を肩から腰の高さ(ストライクゾーン)に配置する
(棚のイメージ。横:頻度分け)
- 棚には置く物の名前を表示する(ラベリングと定位置化)
(棚のイメージ。正面:ラベル)
- 消耗品は、入れる側と取り出し側を区別し、棚に傾斜を付けて自然に先入れ先出しが守られるように工夫する
(棚のイメージ。横:先出し・先入れ)
- 発注点(注文するタイミング)をラインなどの位置で明示し、発注漏れや二重発注を防ぐ
(棚のイメージ。正面:発注点の明示)
このように整頓では「定位置(置場を決める)、定品(決まった物を置く)、定量(決まった量を置く)」といった活動を進めていくことが重要です。
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当該コンテンツは、公益財団法人日本生産性本部の分析・調査に基づき作成されています。
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