(イノチオホールディングス株式会社)
イノチオグループでは1990年より農業生産者の支援として病害虫診断を行っております。現在は年間1,200件前後の診断を実施させて頂いております。
本シリーズでは、実際に寄せられた病害虫診断の事例を交えながら、近年の気象状況や栽培環境・栽培方式の変化などの中で注意すべき病害虫やその対策についてお話させて頂きます。
今回は、猛暑となった2024年夏秋に持込が増加した病害虫について、対策とともに紹介します。
2024年夏秋 猛暑・豪雨・残暑
気象庁の発表によれば、2024年夏(6月〜8月)の日本の平均気温は、観測史上1位、猛暑日地点数の積算も過去最多となりました。 さらに西日本・東日本では猛暑日で日照が多かった一方で、局地的な雷雨の頻発や台風の接近などにより、降水量も多く、異常猛暑と多雨の夏だったと言えるでしょう。
また9月以降も高温は続き10月までは夏の暑さが残りました。そのような気象の中、人間でも熱中症による救急搬送車数は過去最多となったようです。 実は植物でも同じ状況が発生し、弊社の診断室にも今年は多くの農作物が救急搬送(?)されてきました。
2024年夏秋 持込が増加した病害虫
ナス科作物の青枯病(細菌性病害)
平年であれば9月位までの発生でありますが、猛暑・残暑の影響で11月後半まで持込が多くみられました。病気の進行が速く、被害も激しいため、迅速な対応が必要となります。
症状
- 葉:日中青い葉のまま萎れ、夜間に戻る状態を繰り返し、やがて枯死する。
- 茎:維管束は褐変し、切り口から乳白色の汁液が染み出る。茎を水に浸すと、白濁液が流れ出る。
主な被害作物
トマト、ミニトマト、ナス、ピーマン、ジャガイモ など
発生の仕組み
- 感染源:土壌伝染、汁液伝染
- 病原名:細菌 Ralsronia solanacearum (ラルストニア)
- 病原菌は作業中にできた根や茎の傷口から侵入する
- 水と共に移動し、健全株へ伝染する
- 土壌センチュウの加害によって発病が助長される
対策
- 発生圃場では太陽熱や土壌くん蒸などの土壌消毒を行う
- 抵抗性を有する台木や、高接ぎ苗を使用する
- 感染株は地際から切断し、圃場外へ処分する(引き抜くと根の傷から病原菌が土壌へ広がる)
- ハサミ・ナイフから汁液伝染するので、70%エタノールなどで消毒する
- 養液栽培では水温を20℃以下に管理する
【株全体の萎れ】
トマトかいよう病(細菌性病害)
発病適温が25〜28℃で、盛夏期には一時病勢は停滞する病気です。しかし、ここ数年は年中途切れなく発生が見られ、持ち込み数も多くなっています。
症状
- 葉:葉縁から萎れ、上方に巻き上がる。葉脈間が黄化し、やがて葉全体が褐変枯死する。
- 茎:維管束が淡褐色に変色し、進行すると空洞となる(茎を押すとスカスカ)。青枯病ほどではないが、茎を水に浸すと、白濁液が流れ出ることがある。
- 表面:葉・葉柄・茎・果実に隆起したコルク状の小斑点を生じ、進行すると縦に裂けることがある。
主な被害作物
トマト (ミカン科やバラ科などにも「かいよう病」はあるが、病原菌や症状が異なる)
発生の仕組み
- 感染源:土壌(被害残渣と共に土壌中で生存する)、種子伝染、資材から感染(資材にも菌が残る)
- 病原名:細菌 Clavibacter michiganensis
- 病原菌は作業中にできた根や茎の傷口から侵入する
- 多湿条件で発生が増加し、降雨によって伝染が助長される
対策
- 発生圃場では太陽熱や土壌くん蒸などの土壌消毒を行う
- 抵抗性を有する台木や、高接ぎ苗を使用する
- 感染株は地際から切断し、圃場外へ処分する(引き抜くと根の傷から病原菌が土壌へ広がる)
- ハサミ・ナイフから汁液伝染するので、70%エタノールなどで消毒する
- 消毒済み種子(乾熱または温湯)を使用する
- 使用した資材の消毒を行う
【葉縁から枯れている症状】

被害の拡大を最小限にするために
弊社では、かいよう病・青枯病が疑われる場合、分析用キットを活用して診断を行っています。どちらの病気なのか、もしくは併発しているのか診断が可能です。青枯病またはかいよう病の疑いで持ち込まれ、それぞれ検査をした結果、併発している事例も多数あります。
また、他の病気でも同様な症状が発生する場合もあるため、病気の見分けはとても難しいです。発病初期段階で診断し、迅速に最適な対策を行っていただくことで、被害の拡大を最小限に留め、次作以降の伝染源を減らすことにつながります。
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次回は【近年増加する土壌病害虫 ①有害センチュウとセンチュウ複合病害】に加えて、防除に関するお役立ち情報についてご紹介したいと思います。ぜひ、ご覧ください!
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