(NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)特任研究員 山本 精一)
岐路に立つエネルギー問題、化石燃料から再生可能エネルギーへ
地球温暖化問題や脱炭素化の話を聞かない日がないほど普通の生活の中で、一般化してきましたが、ロシアのウクライナ侵攻に伴う世界情勢の激変によって、化石燃料がひっ迫する事態となり、改めてエネルギー問題が急速に注目される状況になっています。
特に最近の電気料金の高騰やその背後にあるエネルギー問題に急速に注目が集まっています。
そもそも人間が快適に暮らすには、何らかのエネルギー利用は欠かせない要素であり、エネルギーの安定供給は欠かせないことが最近の社会情勢から明らかになりました。
このような情勢下、いつまでも化石燃料に頼った形でのエネルギー利用では、エネルギー安全保障の観点からも、安定性に欠ける上に、化石燃料の購入代金を支払わなくても、日本国内の自然環境によりエネルギーが得られる再生可能エネルギーの急速な転換促進策が望まれる状況にあります。
再生可能エネルギーの中でも優位性がある太陽光発電
特に、再生可能エネルギーによる発電で得られる電気は、最も使い易く、利便性が高いので、今後再生可能な電気エネルギーへのシフトが急速に進んで行くことが予測されています。
そのような再生可能エネルギーには、太陽光発電の他に、風力発電、水力発電、バイオマス発電、地熱発電等がありますが、ほぼ日本全国どこでも発電でき、設置場所を選ばないという点に関しては、太陽光発電が自らの意思で、比較的手軽に作れる発電方式です。
また、太陽光発電以外の発電方式では、設置場所が限定される上に、大規模な発電設備を建設しないと元が取れません。
その一方で、太陽光発電は規模の大小を問わず、土地の面積や投資規模に応じて、ほぼスケーラブルな形態で太陽光発電所を設計し、建設できる唯一の方法と言えます。
このような利点の多い太陽光発電ですが、従来の方式(野立て太陽光発電)では、発電を設置できる適地が不足してきており、大きなポテンシャルを有する適地として、農地の活用が脚光を浴びているのです。
農地を多面的に利用する営農型太陽光発電:ソーラーシェアリング
農家の立場で考えると、既に農林水産省が農地利用形態を考えた農地を使って営農型太陽光発電、すなわちソーラーシェアリングを事業化できる仕組みや制度が定められています。
農地で農作物を栽培しながら、その同じ農地の空中を使って発電事業を行うことができる「ソーラーシェアリング」(海外では、アグリボルテイクス:Agrivoltaics)という方式です。
この方式では農地を、農業を行うための地面と太陽光発電を行う空中の二段階で利用することができるため、農地の利用効率も高められます。
遮光率30%程度でもほぼ問題なく農産物は栽培できる
その一方で、農産物の生育に欠かせない太陽の光を遮って、農作物が育たなかったり、美味しい農産物ができないのではないかという疑問が湧くと思いますが、遮光率:30%程度でソーラーシェアリングの設備を設計・建設すれば、現在日本国内で栽培されているほぼ全ての農産物は問題なく栽培できることが実証的に分かってきました。
そのような背景を踏まえ、農林水産省も農産物の生育に支障が出ないように一定の条件を課していますが、農地を一時的に転用する農地法の一時転用の規程を使って、農地の空中での発電事業を認めており、普及促進に努めています。
日本発祥のソーラーシェアリング
このソーラーシェアリングは、藤棚型、すなわち農地の空中に棚があるタイプのソーラーシェアリングは、2008年に長島彬氏が特許取得し、それを一般に無償公開していることから、まずは日本国内で急速に普及しました。
現在、世界的にも注目され、再生可能エネルギーの利用が進んでいるヨーロッパばかりか、中国、韓国、台湾等の東アジアで急速に普及が進みつつあるという状況になっています。
ソーラーシェアリングを事業化する上での課題
そのような普及局面に入ったソーラーシェアリングですが、農家自身が単独で事業化しようとすると、様々な問題に突き当たることになります。
それは、ソーラーシェアリングは農地の上で太陽光発電を行うことから、農業と発電事業の両面を一定程度知らないと事業化までなかなか進めない現状となっています。
すなわち、ソーラーシェアリングの下で農業を行うための農地法の申請が必要になり、発電事業を行うための申請を電力会社と経産省に対して、申請する必要があるためです。
そもそも日本で太陽光発電事業を行うための制度がかなり複雑になっており、専門家の支援を得ながら進めるにせよ、事業主体として、事業性が確保できるかの経営判断を下せるような知見が必要となります。
本連載にあたって
本連載では、ソーラーシェアリングの制度面、農家のメリット、事業を始めるための準備、国内の先行優良事例、さらには今後の事業の方向性、国内外の最新ソーラーシェアリングの動向、実際に農家がソーラーシェアリングを企画・設計・建設した体験談等を定期的に連載する予定です。
これらにより、農家及びソーラーシェアリングに興味がある関係者の知見を増やしてもらう一助になればと考えています。
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