(NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)特任研究員 山本 精一)
アグリウェブ読者の皆さん、こんにちは、NPO法人 環境エネルギー政策研究所(ISEP)の山本です。
読者の皆さんが農地を所有しているか、あるいは長期間借りることができそうな農地がある場合、ソーラーシェアリングを始めた方か良いか、それなりの金額が掛かるインフラ事業となるため、それほど簡単には判断ができないと思います。
今回はまだソーラーシェアリングになじみのない方、本事業を行っていない方向けに元気の出る話と、なぜソーラーシェアリングを行った方が良い状況になっているのか、さらにはソーラーシェアリングを行う場合の手順等について、話を進めていきます。
元気の出るソーラーシェアリング話
静岡県のお茶の産地で、茶畑ソーラーシェアリングを最初に始めたお茶生産と流通、さらにはソーラーシェアリングによる発電事業を垂直統合型で事業展開している方から、2022年8月に直接伺った話をご紹介します。
この農家でもある事業者は、ソーラーシェアリングの黎明期からお茶生産とソーラーシェアリングの相性が大変良いことに着目し、開拓者精神を発揮して、地元の農業委員会を根気強く説得する等して、自社茶畑に複数の茶畑ソーラーシェアリングを設置してきました。
それだけであれば単なるソーラーシェアリング事業者なのですが、脱炭素の世界的なブームと社会情勢の急速な変化から、特に欧州を中心に再生可能エネルギー・シフトが一段と進もうとしている中で、2022年8月に欧州で開催された食品の展示会に出展し、同社がグローバルに販売している有機栽培の抹茶を売り込んでいる中、太陽光パネルの下で育った抹茶ですと紹介したところ、特にドイツの販売業者から時代にマッチした「ソーラー抹茶」は非常に素晴らしいと大変喜ばれたとのこと。
時代の2つの流れを先取りした商品、すなわち、有機無農薬栽培と太陽光発電を組合せたことで、世界からの引き合いが多過ぎて、抹茶の生産が間に合わないとのことでした。
元々この事業者の抹茶は、コロナ感染拡大以前から欧州王室関係者や世界で活躍する有名日本人に愛飲されていました。
世界的にコロナ感染が流行する中で、抹茶の免疫力や健康増進効果への認識が広まるに連れて、ソーラーシェアリングとの相乗効果で、グローバルでの抹茶販売が絶好調とのことです。

【株式会社流通サービス提供】
地球温暖化時代には不可欠になるソーラーシェアリング
筆者は、農水省から委託を受けて、再生可能エネルギー相談窓口において、営農型太陽光発電に関する相談を受ける活動も行っています。
最近、中堅の農家から受けた相談の中で、営農型太陽光発電を行う理由として、「真夏の日照と気温が高過ぎて、農作物に悪影響を与えていると感じられるので、農地に日影を作るために、営農型太陽光発電を始めたい。」というご相談がありました。
既に営農型太陽光発電を行っている農業者からは、真夏の農作業を太陽光パネルの下で行うことができるので、身体的にはかなり楽になったという体感的なお話もよく伺います。特に、日焼けを心配される女性農業者の方からの評判は極めて良いです。
そのような観点からも、ソーラーシェアリングは地球温暖化時代に適したこれからの農法とも言えるでしょう。
営農型太陽光発電を行うための制度面
農地の中で、第一種農地、かつ農業振興地域にある農地で太陽光発電を行う場合には、農地で農作物を耕作しながら、発電を行う必要があり、農業委員会から農地法に基づく許可を取得する必要があります。
また、「認定農業者」の資格を有していないと、発電に対する扱いが不利になりますので、注意が必要となります。
ソーラーシェアリングでも大型のメガソーラー発電所もありますが、ここでは1反〜5反程度の農地を対象にした事業、すなわち固定価格買取制度(FIT制度)を利用した低圧(10kW以上〜50kW未満の発電区分)の設備についての話とします。
固定価格買取制度(FIT制度)は、名前の通り、産業用(10kW以上)であれば、20年間、固定価格で売電できるという有利な仕組みが設けられています。
ソーラーシェアリングの事業化の手順
まず、ソーラーシェアリングの事業化に関して、次のような手順で進めて行きます。
1) 適する農地かどうかの目利き近くに送電線があるかどうかの確認と周辺の農地への影響が少ない農地かどうか等を事前に確認する必要があります。
2) EPC事業者への見積り取得下記3) の電力申請する場合に、電気的な設計図面である「単線結線図」が必要になるため、工事店や専門家等の助けが必要になります。
3) 送電線への接続申請・連系契約の締結と系統連系費用の算出電力会社(送電会社)が算出した系統連系費用を支払って、接続契約を結ぶ必要があります。
4) 経産省への事業認定申請と認定取得経産省(資源エネ庁)が業務委託しているJPEAのホームページ上で、電子申請を行います。今年度の事業認定を取得するためには、3)から含め、各地域(電力会社)毎に申請の締切日が定められているので、この期日に間に合うように申請する必要があります。
5) 農業委員会への一時転用申請農地法第5条の一時転用の仕組みを用いて、申請書式(各農業委員会で)を揃えて、農業委員会に提出し、事前に許可を得る必要があります。
6) 営農型太陽光発電設備の建設(EPC事業者)営農型太陽光発電所を建設するために、複数のEPC事業者から見積りを取得することが望ましいです。金額の他に、それぞれの会社毎に特色があるからです。
7) 売電開始電力会社(送電会社)との協議で、発電所の建設完成後に送電線に接続すると、売電が開始されます。
(農水省 営農型太陽光発電取組支援ガイドブック P11より)
広い農地を所有する等していて、かつ送電線が要件を満たす場合等諸条件が整っていて、高圧以上の規模の大きな営農型太陽光発電を望まれる場合には、上記の申請手順と多少異なる事項があるので、本格的にご検討される場合には、個別に下記問合せ窓口まで、問合せいただければ、ご相談に応じられます。
〇農水省の営農型太陽光発電に関する相談窓口地域循環資源のエネルギー・マテリアル利用による農山漁村活性化に向けた取組支援のための相談窓口
農林漁業関係者のみなさんや地方公共団体の方々が行う、農林漁業の現場で抱える課題を再生可能エネルギー事業を初めとした地域循環資源のエネルギー・マテリアル利用により解決しようとする取組を支援するため、専門家による個別相談窓口を設置しています。再エネ相談窓口パンフレット(農水省委託).pdf
(一社)全国ご当地エネルギー協会(https://communitypower.jp/support-contact)
シリーズ『進化するソーラーシェアリング 〜地域・農業・エネルギー共存共創の時代へ』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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