(株式会社ルートレック・ネットワークス)
第1回、第2回、第3回、第4回のコラムでは、国内における環境制御装置の歴史や、オランダの施設園芸への国内への影響、UECSの開発と施設園芸への導入、スマート農業や施設園芸の知的財産権について、ご紹介しました。5回目は、スマート化が進んだ生体情報の計測例をご紹介します。
作物の生育にかかわる生体情報の見える化
施設園芸におけるスマート化で取り上げられることが多いのが、作物の生育にかかわる生体情報の見える化です。
これらは環境モニタリング機器による生育環境の見える化とともに、生産性向上のための重要な要素と考えられます。
作物の生体情報には、作物の表面温度や葉面積などの物理的な状態に関するもの、光合成や蒸散などの生理的な状態に関するものなどがあります。
前者はセンシングにより作物を直接計測しデータを取得するもので、後者は様々なデータを計測してから演算し間接的に求めるものです。
最近はメジャーやノギスを用いて手作業で作物の生育状態を計測、記録する方法も広く普及していますが、本コラムではスマート化が進んだ生体情報の計測例をご紹介します。
葉温の直接計測
一般にハウス内の気温を測定する場合、作物群落付近に温度センサーを設置します。作物の生長点付近に設置することも多いでしょう。これは作物の表面温度に近い測定点を選んでいるものであり、本来は作物の葉温を直接計測するのが正確と言えます。
それにはピンポイントで表面温度を測定可能な、微小径の熱電対を用いる方法があります。
文献1)には古くからある熱電対の測温部を葉に付ける方法として、テープや接着剤などを用いる方法が紹介されています。また文献2)には、微小で軽量なセンサーと葉への取付け器具をセットにした、葉温計測に特化したセンサーが紹介されています。その他にも、放射温度計を用い非接触で計測する方法があります。
葉面積の簡易的な計測
栽培管理の指標として、葉面積指数(LAI : Leaf Area Index)が用いられることがあります。
これは栽培面積当たりの葉面積のことで、作物の繁茂の程度を示します。トマト栽培などでは葉かき作業の指標として用いられます。その計測は煩雑で、正確に行うには葉を切除してサンプリングする必要もあり、生産現場では難しいものと考えられます。
宮城県農業・園芸総合研究所では、簡易的に葉面積指数を計測するための手法を開発しています。
文献3)には、現場で生産者が簡易に行えるよう、「「株あたりの葉枚数」と「10枚目〜最下葉のうち中庸な葉の葉長×葉幅」から株当たりの葉面積を求め、そこに栽植密度を乗じ、LAI を推定する」とあります。ここでは品種ごとに適切な葉面積を求めるための推定式をあらかじめ用意しています。計算シートは同研究所より入手可能となっています。
イチゴの草丈等の画像計測
イチゴの栽培では、繁茂の程度を草丈(地表面から茎頂部までの距離)で表し、樹勢管理の指標とすることがあります。同じく宮城県農業・園芸総合研究所では、イチゴの草丈(草高)と受光葉面積を3次元形状計測センサを用い計測する方法を開発しました。
文献4)には、宮城県内のフェンロー型ハウス内で「センサを高設栽培槽上面から2.2m上方に設置し、1台で6株の草高を計測し、約22株の群落受光葉面積を計測している」とあります。
計測にはマイクロソフト製の「Kinect for Windows v1」を用いています。文献5)にはKinectについて、「元来ゲーム上のキャラクターを遊び手側の動きや音声で操作するために開発されたセンサで、前面が RGB可視光カメラ、距離測定用赤外光カメラ、赤外線プロジェクタ、マルチアレイマイクロフォンで構成され」とあります。同文献は、Kinectによる作物草高計測や葉面積計測の詳細を紹介しています。

(画像はイメージです)
光合成速度等のチャンバを用いた計測
光合成速度は作物がどれだけ光合成を行っているかの指標であり、光合成によるCO2吸収速度により表されます。
文献6)には「光合成蒸散リアルタイムモニタリングシステム」として、開放型同化箱法によりトマト群落の光合成速度と蒸散速度をリアルタイムで計測する方法が紹介されています。
これは「下部が開放されているチャンバ(透明なプラスティックバッグ)に、栽培されている状態のトマト2個体を内包」し、「上部のファンによりチャンバ内空気を継続的に排気し、チャンバ下部の開口部からチャンバ内に流入する空気(Inflow air)とチャンバから排出される空気(Outflow air)の CO2濃度差および H2O濃度差を計測する」ものです。
トマトの株をすっぽりと透明バックで覆いかぶせた中の空気を排気しながら、吸気との濃度差をリアルタイムにモニタリング、光合成速度等を演算するシステムとして市販されています。
光合成速度等の演算による推定
前述の開放型同化箱法による光合成速度等の計測は、それなりに設置の手間などが必要となります。
一方で、環境モニタリング機器で得られる各種環境データや温室の情報などをもとに、光合成速度や蒸散速度などを演算し推定するフリーウエアが提供されています。
文献7)にはその概要が記載されており、「温室の大きさや温室内の環境情報などから、温室のエネルギー収支や光合成速度・蒸散速度、純光合成最適温度などが簡単に求められるソフト」とあります。
なお、同様なプログラムを内蔵した環境モニタリング機器も販売され、リアルタイムに光合成や蒸散などの生体情報を推定することが可能となっています。
文献8)には「温室環境をクラウドに送ってデータ処理を行うIoT装置で、環境データを植物の機能や状態の推定に利用できる温室栽培支援システム」とあり、「植物生理モデルを用いて,環境から純光合成速度や蒸散速度等の値を推定することが可能」とあります。その結果、「設定値を決める苦労から開放され,環境管理の負担を軽減」が期待されるものです。
今後の展開
この分野は技術開発も日進月歩であり、今後も様々な製品やサービスが提供されると思われます。また前述の宮城県が開発したような簡易的な計測方法も、各所から提供されるものと考えられます。
手作業による生育調査にかわるスマート化の手法として、コストダウンも含め生産現場への浸透が期待されます。

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AI自動潅水施肥システムのゼロアグリの製造、販売をしています。
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