『アグリ5.0に向けて〜越境する農業の現場から〜第4回』、今回ご紹介するのは、一般社団法人シェアリングエコノミー協会(以下、シェアリングエコノミー協会)です。
「個人と個人がつながる社会を実現することで、公助を共助で補完する」ことを目指し、2016年に立ち上がりました。いま 、グローバルで事業を展開するAirbnb(エアビーアンドビー) などが日本でも本格的に広がり始めた時期に当たります。
2021年3月現在、登録会員は企業だけで300を超え、それ以外にも政府、自治体、個人が入会するマルチセクターの団体になっており、 政策提言や会員同士の情報交換、マッチングを通じたCo-Sociey(コ・ソサイエティ)の実現に向けた活動を推進しています。
シェアリング・エコノミー協会に参画する動機
同協会事務局次長の鏡晋吾さんにお話を伺い、協会に参画する企業の動機には大きく2つの種類があると感じました。
まずは Airbnb のような、シェアの考え方そのものが自社のビジネスの根幹にある企業。 彼らにはシェアリングの考え方が広がると、マーケットが大きくなるため自社の事業成長に つながるというビジネス上のメリットがあります 。
もうひとつは協会が目指す持続可能な共生社会、Co-Societyの実現という趣旨に賛同し、協会とともにその考え方を広げたいと考える企業。 彼らは、SDGsやESGという今後企業経営をしていくうえで必須となるアジェンダに対する、具体的活動を協会とともに実践していこうという動機を持っています 。
後者は、食農領域の目指す社会像と一致する部分も多いので、今後もシェアリングエコノミー協会と食農領域の連携はより進んでいくと考えられます。
畑をシェアする"部活動"
シェアリングエコノミー協会メンバーでもある、株式会社アドレス(以下、ADDress)の取締役の桜井里子さんにもお話を伺うことができました。ADDressは、空き家や別荘などを物件オーナーからサブリースし、会員にサブスクリプションで提供しています。
ADDress では会員に貸し出す家を管理する人は 家守(やもり)と呼ばれているのですが 、家守と会員などで構成するADDressコミュニティの中にいま、「ADDressゆうき農業部」という部活動があります。
部活動では、神奈川県秦野市の畑を会員がシェアして耕作しています。神奈川県愛甲郡清川村にあるADDress清川邸家守の河野潤さんを中心に、 裏庭で農業をやり始めたのが発端でした。
河野さんは農業の知識がなかったため、秋田県と東京都の二地域居住をしながらゴロクヤ市場という野菜卸を営む、専門家の佐藤飛鳥さんに協力を依頼し技術を習得。
今では、 ADDress小田原A邸家守の平井丈夫さん主催の軒先市に野菜を出荷することもあるそうです。ADDress清川邸では、居合わせた滞在者にも声を掛けて月一回、専門家・佐藤さんによる営農指導も行っているとのこと。ここでは農業が一つのコミュニケーションツールとなっており、仲間同士での共通言語のような存在になっています。
"想い"でつながる第三世代のシェアリングエコノミー
お話を伺っているうちに、シェアリングエコノミーはいま、第三世代に入っているのかなと感じました。
第一世代:所有する "モノ" を他者と共同使用する
第一世代は大量生産、大量消費の時代が終わり、可能な限り個人の所有物を他の人と共有して使うことを目指した世代。
この段階で、シェアリングにより無駄をなくし、持続可能な世の中を目指すという共通の目的が設定されました。宿泊施設を新規で建てるのではなく、空き家を他人に貸すことでその土地への外来者の宿泊ニーズを満たす、Airbnbのというビジネスがこれに当たります。
この世代では、人々の環境配慮の意識の高まりもあり、この領域がある種の成長市場となっていたため、各企業はユーザーが増えれば増えるほど事業が成長するビジネスモデルをこのマーケットに持ち込みました。これはシェアリングエコノミーにおけるいわゆるマクロ視点での市場創造世代だったといえるかもしれません。
第二世代:各個人の "コト" をマッチングする
第二世代では、もちろん環境配慮などによる持続可能な世界は目指しつつも、「モノ」ではなく時間やスキルなど、個人の「ソフト(=コト)」を個人視点で共有することで、それぞれがより豊かな暮らしを手に入れることを目指しました。
この世代では、サービス提供者/社は各個人にあるソフトをミクロの視点でマッチングする場をプラットフォーム的に提供し、自社の事業を展開するモデルでビジネスをしています。
例えば、飲食店のランチ時間のホールスタッフ向けに一日単位で自分の空き時間をスポット的に提供する、自称スキマバイトサービスのTimee(タイミー)といった事業がこれにあたります。
第三世代:"課題" や "想い" をシェアする
そしていま、第三世代では共有されるものそのものが、「課題」であったり、「気持ち」であったり、「想い」、「夢」みたいなものになっている気がします。
前述の ADDress 清川邸の事例も、利用者はアドレス社が提供する施設を利用していることはもちろんですが、清川邸で行われるイベントへの参加者の様子を聞いていると、家守である河野さんの「想い」がまず共有され、その想いを成就する体験をシェアするために、手段として場所、時間、労力などを共有しているのではないかと思えます。
第2回目に紹介した "共感消費" を実現するポケットマルシェの取組み、前回紹介した農業と教育の "新結合" も、振り返れば第三世代のシェアリングエコノミーそのものであるのかもしれません。
個と個が相互の「想い」や「課題」でつながる新しい掛け算
前回のコラムで、マイナスとマイナスを掛けるとプラスになるというお話をしました。
それぞれが事業や生活を進めるうえで課題を持ち寄り、集める(=足し算)するだけではなかなか解決策が見いだせません。
一方、それぞれを組み合わせて(=掛け算)、何か新しいものを生み出そうとする。「夢」や「想い」をシェアすることで、いまはつながっていない誰かとつながることができたり、想像もつかない誰かの役に立てたりする。「気持ち」をシェアすることで、一気にさまざまな課題が解決する道筋ができるなんてこともあるのかなと思います。
もともと農業協同組合とは、相互扶助の精神のもとに農家の営農と生活を守り高め、より良い社会を築くことを目的に組織された協同組合(JAグループWEBサイトより)です。いわば、シェアリングエコノミーの先駆けであったとも言える存在です。
家族経営を中心とした小規模農家が多い現在の日本の食農領域においても、SNSやアグリウェブが提供するさまざまな機会を上手に使い、個と個が相互の「想い」や「課題」でつながることで、新しい掛け算を行ってみてはいかがでしょうか。
次号「アグリ5.0に向けて 〜越境する農業の現場から〜 第5回」では、農業領域ど真ん中でシェアリングサービスを提供するJA三井リースについてレポートします。ぜひご期待ください。
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