伝統的な農作業の合図
ベテラン農家のなかには「農業を何年もやっているから感覚でわかる」「昔の暦に合わせればだいたい大丈夫」というように、経験を重視する人が数多くいます。確かに、個人や地域の経験にのっとった農業は大切です。
例えば、伝統的に農業で利用されている事象に雪形があります。
雪形は、自然現象にもとづく農事暦です。雪形には、雪が残って白く見える形と、雪が解けて黒く見える形の両方があります。「種まき爺さん」「常念坊」「蝶」「種まきウサギ」などと名付けられ、雪形の発生するタイミングが田畑の仕事や漁を行う時期の目安に利用されてきました。
雪形は、積雪量や気温に左右され、その後の用水量にも反映されるため、天候や災害の予測、豊凶占いにも用いられました。積雪量が少なく雪形が早く消えた年は、水不足が懸念され、また、いつまでも消え残る年は冷害が予見されます。
長野県北アルプスにある白馬岳で見られる馬型の雪形は「代馬(しろうま)」と呼ばれ、代掻きをする馬の形に見立てたものです。これが見られると代掻き作業をする時期が来たよと雪形が教えてくれるのです。
この「代馬(しろうま)」が白馬岳(山の名前は“しろうまだけ”です。地元では“はくばだけ”と呼ばれることもあります。村の名前は白馬村“はくばむら”です。)の名前の由来になったと言われています。(諸説あります)
経験則からデータ駆動型農業へ
とはいえ、最近の気候変動は異常なレベルです。猛暑が何年も続き、数年に一度、大雪や雪不足がやってきます。このような状況の中で、今まで通りの経験則にもとづいた農業をおこなっていて良いのでしょうか。
今回と次回に分けて、すぐにできる簡易なデータ駆動型農業と、最新の技術・情報を使ったデータ駆動型農業をご紹介します。
「隣の家が稲刈りを始めたからうちもやろう」ではない、新しい農業を感じてください。
簡易なデータ駆動型農業の例 積算気温を知る
読者のなかには、すでに積算気温を利用している方がいるかもしれません。積算気温とは、日平均気温を加算した値で、水稲では収穫時期などの目安に用いられています。例えば中生品種では、出穂後1,000〜1,050℃が収穫適期と言われています。
積算気温は、レタスやスイカ、トウモロコシ、トマト、ナスなど、さまざまな作物の収穫時期の判断に利用されています。起算日は作物により出穂日や着花日、定植日などが用いられます。
積算気温は、インターネットの気象情報をもとに日々の平均気温を加算することで計算できます。ただし、インターネットで提供される気象情報は、メッシュが大きなものがほとんど(気象庁の天気分布予報で1辺が約20㎞)で、山間地や高低差のある地域などでは実測値と差があることがあり、圃場ごとの判断には不向きでした。また計算するのにひと手間かかるのも難点です。
最近、精度が高い1㎞メッシュ気象情報が手軽に入手できるようになってきました。1㎞メッシュ気象情報とは、気象庁の気象データをもとに、標高などの要素を加味し再計算した1㎞四方ごとの気象情報です。農研機構のメッシュ農業気象データや、前回紹介した営農管理システムZ-GISから利用できます。
営農管理システムZ-GISに搭載される1kmメッシュ気象情報(ハレックス提供)は、24時間天気、1週間天気予報を確認できるだけでなく、風速や風向き、積算気温を見ることができます。過去5年間の平均値をもとに、積算気温に達する日にちを表示することもできます。
これを使えば、対象作物の起算日(出穂日や着果日・定植日など)を入力するだけで、稲刈りや収穫などの適期を予想することができます。
AgriweBの農業者会員の方は、アピネス/アグリインフォの1kmメッシュ気象情報を利用して、Z-GISと同じ情報を入手することができます。
かつて雪形を見ることや観天望気は、農業をおこなう上で必要なスキルでしたが、いまでは、インターネットで精密な気象情報を手に入れることが可能です。こうした気象情報を利用すれば、明日の風速を調べて農薬散布ができるか判断することや、積算気温を調べ、作業適期(稲刈りや収穫)を予測することが可能です。
これらの情報は、わずかなコストで使えるのも重要なポイントです。簡単に手に入る情報を有効に使うのもスマート農業の第一歩と言えるでしょう。
次回は、最新の技術・情報を使ったデータ駆動型農業をご紹介します。
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