前回、自然現象にもとづく農事暦や気象情報を利用した簡易なデータ駆動型農業について触れました。今回はドローンや人工衛星画像、AI診断などから農作物の状態を知る最新のデータ駆動型農業をご紹介します。
人工衛星やドローンを使ったデータ駆動型農業の例(リモートセンシングによる作物診断)
人工衛星の一般的な活用方法と言えば、天気予報に用いられる気象衛星画像、カーナビやスマートフォンなどのGPSでしたが、農業現場でも次々と新しい活用方法が検討されています。
近年、人工衛星やドローンによるリモートセンシングを活用した生育診断技術が注目を集めています。診断項目や精度はサービスにより異なりますが、いずれも生育診断結果を反収アップ、品質安定、倒伏回避などに結びつけることを目的としています。
営農支援サービス「天晴れ」
営農支援サービス「天晴れ」(国際航業(株))は、人工衛星を使ったリモートセンシングサービスです。人工衛星画像を独自に解析し、水稲であれば葉色、穂水分、玄米タンパク含量といった生産現場になじみのある指標に変換して診断します。
Z-GISや地図ソフトなどのシステム上で圃場ポリゴンや基本情報を作成し、診断希望日を指定して「天晴れ」のWebサイトにアップロードすると解析が依頼できます。
結果は、圃場ごとの色分け(ヒートマップ)で表示され、穂水分であれば、乾いているところ、まだ乾いていないところなどを見分けることができ、これを参考に刈り取り日を決めることができます。ほかにも葉色を診断し、追肥の目安にするなど活用方法は様々です。
ドローンによるリモートセンシング
ヤンマーアグリジャパン(株)が提供しているドローンによるリモートセンシングは、特殊なカメラを装着したドローンにより撮影した画像を解析します。撮影に必要なカメラを有したドローンを所有していれば、そのデータから解析が可能です。また、手持ちのドローンがない場合は、ヤンマーなどが撮影を受託しています。
ドローンセンシングは、高度な解析により、1mメッシュのNDVI(正規化植生指数)・植被率のマップとともに圃場ごとのNDVI・植被率の平均値・ばらつきを診断します。解析結果は、リモートセンシング用のスマートアシストからダウンロードが可能で、施肥の判断・倒伏診断に活用します。
ザルビオフィールドマネージャー
ザルビオフィールドマネージャー(BASFデジタルファーミング・全農)はAIを活用した栽培支援システムで、水稲・大豆の生育予測、病害・雑草防除の支援を行います。その機能の一つに、人工衛星を利用した「植生マップ」があり、登録した圃場の植生解析結果を経時的に把握することができます。
つまり、圃場の中の生育状況がヒートマップで確認でき、生育の良いところ、悪いところをわかりやすく表示してくれます。これらは、追肥タイミングや追肥量(肥料切れを防止し、倒伏させない)などの判断材料として利用できます。
また、植生マップから農機の散布マップを作成することも可能で、翌年の肥料散布(田植同時可変施肥田植え機や可変施肥ブロードキャスター)に活用することも可能です。
これらに加え、ザルビオフィールドマネージャーは、圃場ごとに入力した品種、田植え日の情報から、生育ステージ(幼穂形成期、穂ばらみ期、乳熟期等)を表示します。いままでは、圃場ごとに調査をおこない生育ステージを確認していましたが、ザルビオフィールドマネージャーを導入することで調査の労力を軽減できる可能性があります。
もちろん、これらのサービスを導入するためにはコストがかかります。ただ、管理圃場数が増えひとりで担当する圃場数が多くなった近年の農業経営では、的確な生育判断や労力軽減のためのコスト増はやむを得ません。今回ご紹介したサービスは、費用対効果を考慮すると、比較的安価に提供されていると言えるかもしれません。
いままでの農作業とこれからの農作業
いままでの農作業は、自分の圃場を自分の目で見ながら、経験則や営農指導員などの助言をもとに様々な判断をおこなってきました。
車の運転に例えるなら、人に教えてもらった情報から手書きの地図で目的地に向かうようなものです。新しい営農支援システムを導入することで、スマホで見る最新の地図やカーナビを見ながら目的地に向かう現在の車の運転に近づいたと言えるのかもしれません。
生育ステージは、経験則だけでは判断が難しく、現地調査をおこなう必要がありました。これに対し、最新の技術・情報を使ったデータ駆動型農業の一例、ザルビオフィールドマネージャーを使えば、圃場を登録し、最小限の情報(田植え日・品種、苗の状態など)を登録するだけで、AIが生育ステージを予測し、防除などを提案してくれるようになりました。
農作業をおこなう上で必要な情報を適切なタイミングで提示してくれます。その情報をそのまま判断材料として使うのではなく、現場の状態を点検し、経験則を加えることで、より適切なデータ駆動型農業が実現できるのです。例えば、倒伏させずに最大限の収穫量を目指すことも可能となってくるのです。
データ駆動型農業は、自然現象にもとづく農事暦や気象情報から導く判断に加え、ドローンや人工衛星情報、AI診断など新しい技術を駆使して取組む、新しい農業の形なのです。
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