アグリウェブの皆さん、こんにちは、共栄火災海上保険株式会社です。
私たち共栄火災は、自然災害へのリスクを始め、農業経営にかかわるリスク、またそれ以外の様々なリスクに対する補償を幅広く提供している損害保険会社です。
本コラムシリーズでは、農業経営をとりまく様々なリスクを取り上げ、損害保険が果たしている役割について解説していきます。
2回目のコラムでは、農業者の労働災害について取り上げていきます。
農作業における危険性
2022年7月に開催された農作業安全検討会(農林水産省)において、農作業中の労働災害が引き続き増加していることが確認されています。
農業における動向をみると、労働災害の発生件数、農業機械事故の発生件数、農業機械事故の発生割合はいずれも上昇傾向にあり、休業4日以上の労働災害の発生件数は平成27年の1,234件から令和2年には1,535件と300件超増えています。
また、農業従事者数10万人当たりの死亡事故者数は10.8人と過去最多で、この数値は全産業(1.2人)の9倍、建築業(5.2人)の倍以上となっており、また他産業では減少傾向にあるにもかかわらず年々増加しています。
乗用型トラクター・農用運搬車・コンバイン・ハーベスターでの「はさまれ、巻込れ」等、農作業ではあらゆる場面で事故が発生していることも特徴的です。
(参照)「中間とりまとめ」の取組状況(令和3年12月農産局)
労働力の確保と顕在化する労災リスク
日本の農業生産者は年々高齢化し、今後一層の担い手減少が見込まれ、労働不足等の生産基盤の脆弱化が深刻な課題となっています。
2020年度の農業センサスでは、農業経営体は107万6千経営体と5年前の調査と比べ30万1千経営体減少しています。内訳としては、個人経営体は103万7千経営体で、5年前の調査と比べ30万3千経営体(22.6%)減少しています。一方、団体経営体は3万8千経営体で1千経営体(2.8%)増加しており、団体経営体のうち法人経営体は3万1千経営体で5年前に比べ4千経営体増加しています。
そのような現状を受けて、農業生産の主要な担い手となりつつある法人経営体を中心に、労働力確保のため、地方移住者、地域おこし協力隊、デイワーク、外国人など非正規雇用者の雇用を試みていますが、習熟していない従業員の見様見真似による事故も多く、休業4日以上の労働災害発生件数1,535件のうちの46%が経験年数3年未満の未熟練者による農機事故となっています。
新規就農者を確保し定着させるためには、働き手が安心して作業ができる労働環境を整えることが重要であることは言うまでもありませんが、加えて、残念な事故により従業員が業務上ケガをしたり病気になったりした場合には、従業員に対する安全配慮義務が求められる使用者において義務履行に伴う金銭的負担が発生し、安定経営に影響を及ぼすケースが増加することも懸念されます。
農業経営における労災保険の加入状況
使用者の負担を軽減するために、公的な制度として労災保険制度があります。
しかし、このように危険が多い農作業でも、「基幹的農業従事者」における2020年度の労災保険加入率は9.8%と2016年度の加入率8.5%から増加しているものの低調なままです。(日本農業新聞より)
加入が進まない要因として挙げられるのは、従業員を雇った場合にも労災保険加入が任意となる「暫定任意適用事業」です。
労災保険制度とは、労働者の業務上の事由または通勤による労働者の傷病等に対して必要な保険給付を行い、あわせて被災労働者の社会復帰の促進等の事業を行う制度です。
労災保険は、全ての業種に共通に、原則として一人でも労働者を使用する事業は、業種の規模の如何を問わず、すべてに適用されます。その費用は、原則として事業主の負担する保険料によってまかなわれています。なお、労災保険における労働者とは、「職業の種類を問わず、事業に使用される者で、賃金を支払われる者」をいい、 労働者であればアルバイトやパートタイマー等の雇用形態は関係ありません。
ただし、農業労働者の労災保険の適用については、個人経営の場合、常時使用する労働者が5人未満で、 かつ危険・有害作業をともなわない事業は「暫定任意適用事業」とされ、労災保険が強制加入ではなく任意加入となっています。
任意加入とされる個人経営においては、農業者のための「特別加入制度」によって労災保険に加入することが出来ます。農業者のための特別加入制度には、①年間の農産物販売額が300万円以上または耕地面積が2ヘクタール以上の農家が入れる「特定農作業従事者」、②トラクターなど農機を使う人が入れる「指定農業機械作業従事者」、③法人代表者や家族従事者が入れる「中小事業主等」の3種類があります。
特に個人経営体においては作業中に事故が発生すれば経営者の農家に治療費などを全額負担する義務があり、経営の存続も左右しかねないため加入の必要性は相応に認識されるものの、新たに費用を捻出する点等がネックとなり、加入が進んでいない現状です。
現在では、労災保険加入率を高めるようにJAでの窓口設置や地方公共団体と連携した加入促進が行われており、農業の現場でも加入の必要性を訴えることが多くなってきています。未加入の農業者の方は是非最寄りのJAや地方公共団体への問い合わせをお勧めします。
◆基礎知識【労災保険】労働者災害補償保険の基本 もご参照ください。
<本コラムの執筆者>
共栄火災では、自然災害のリスクを始め上記のような農業経営にかかわらず、さまざまなリスクに対する補償を提供しています。
シリーズ『農業経営を取り巻くリスク〜変わるリスクのかたち』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
公開日