農業労働力を取り巻く環境
農林業センサスによると、2020年の基幹的農業従事者数は136万人。2000年と比べると約43%も減少しています。
高齢化も進展しており、人数・年齢両面から農業現場での労働力不足が問題となっています。(図1)
【図1】基幹的農業従事者数と平均年齢の推移
出展:農水省「農林業センサス」
また、農業法人白書によると、生産者が認識する経営課題の中で2番目に大きい割合を占めているのが労働力であり、
統計データ上だけでなく生産者の肌感覚においても労働力不足が顕在化しています。(図2)
【図2】生産者が認識する現在の経営課題
出典:日本農業法人協会「2021年版農業法人白書」
このような環境認識のもと、JA全農では農業生産現場の労働力不足対策として『91農業』の提唱を始めました。
本シリーズでは、『91農業』を通じて見えてきた、ライフスタイルにあわせた農業の新しい働き方について紹介するとともに、
そういった新しい働き手を地域の農業生産現場に呼び込む意義とポイントについて、事例を交えて解説していきます。
第一回目の今回は、労働力不足解消に向けた取組の概要をご紹介させていただきます.
91農業とは
91農業とは全農が掲げる農業参加促進のキャッチコピーです。
「あなたのライフスタイルに農的生活を1割取り入れませんか?」をコンセプトに、1人でも多くの方が農業に関わり農業界の人手不足や産地振興の解決策につながることを期待して提唱を始めました。
野菜を育ててみたい等、農業に興味があっても一般の方々の農業参加のハードルは高いのが現状です。
91農業ではもっと気軽に農業に参加いただくことを目的にしており、アルバイト・パート、副業、援農ボランティア、ワーケーション等一般の方が様々な切り口で農業に関わることを促しています。
休日に副業で働く「9本業1農業」や子育ての合間に働く「9育児1農業」、旅行の合間に農業に関わる「9旅行1農業」などを提案しています(図3)。
こちらは、企業の福利厚生の一環として活用も可能であり、幅広い層を対象とする可能性を秘めた働き方なのです。
91農業を通じ、ライフスタイルに合わせたさまざまな農業への関わり方を提案することで、深刻化している人手不足を解消しながら、
農業を通じて地域に関わる人「農業関係人口」を増やし、地域への人の流れをつくります。
【図3】91農業ロゴマーク・イメージ
91農業の主な取り組み紹介
91農業の中で軸となる取り組みがパートナー企業と連携した「農作業受委託」です。
一時的に人手が必要な生産者がいる場合、JAや全農がその要請を取りまとめてパートナー企業に依頼し、
パートナー企業が人材募集や労務管理を行い、他産業や一般の方々が生産現場で作業を行うという仕組みです。
行う作業は農業未経験者の方にも安心して参加してもらえるように単純作業を基本としております。
また、連続勤務の期間雇用だと働ける人は限られてしまいますので、農作業受委託では一日単位の雇用としております。
作業内容や作業期間のハードルを下げることで、農業を体験したい人、副業として始めたい人、隙間時間でお金を稼ぎたい人、
子育て世代など、幅広い層から人を集めることができます。(図4)
【図4】農作業受委託スキーム(パートナー企業をJTBとする例)
農作業受委託以外にも「バイトアプリ」や「援農ボランティア」等農業へのハードルを下げる取り組みにはいくつか種類があります。
91農業の広がり
農作業受委託を利用した生産者からは「楽だ」という声が多く聞こえてきます。
生産者は直接指示をする必要がなく自分の仕事に専念できることに加え、従業員の募集や個別の連絡、給与支払い、労災保険への加入といった煩雑な事務作業もありません。
働き手からは「思ったより楽しい」という感想が多く聞こえてきます。農作業の楽しさだけでなく、チーム作業を通じた人とのつながりを楽しむ方も多く見られます。
このように生産者・働き手双方から好評を博しており、事業開始2年目にあたる令和4年度では取り組み県域数18、延べ作業人数は約53,000人にまで取り組みが拡大しています。
全農からのメッセージ
JA全農は91農業を通じ、生産者へは繁忙期などの必要な時にのみ人手を確保する手段を、農業に興味がある人や将来農業を志す人へは農業を経験する場を提供していきたいと考えています。
そして、実はそれだけではない価値も生まれてきています。働き手は農作業をすることで、確実にその地域のファンになってくださることがわかってきているのです。
農作業が終わった後もその地域の農産物に関心を持ち、自ら選んで買っていただく、ということが実際に起こっているのです。
農業に関わるハードルを下げることで、幅広い人々が農業に触れる機会を創出することに加え、その土地のファンを一人でも多く増やすことにより、農業関係人口増加による農業現場の労働力不足を解消するだけでなく、地方創生・地域活性化も目指していきます(図5)。
【図5】91農業概念図
次回、シリーズ第二回コラムでは、実際に91農業を導入された農家様の体験や気づきをご紹介していきたいと思います。
シリーズ『JA全農が提案!"91農業"で人手不足解消へ!』のその他のコラムはこちら
本件に関するお問い合わせは「JA全農 耕種総合対策部 TAC・営農支援課 労働力担当(zz_zk_roudouryoku@zennoh.or.jp)」までご連絡ください。
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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