こんにちは。福島県南相馬市役所の森明(もりみょう)です。
前回、私は「農業は事業だ」と訴え、農業者らには利益を出し続ける工夫・選択をしてほしいと述べました。
今回は農業経営に関わる「コスト」と「売り上げ」について、私が間近で見てきた農業者の事例を踏まえ、私見を述べたいと思います。
初めて接する農業法人の代表。毎日がハードワーク。
プロフィール欄で触れていますが、私はもともと農水省の職員で、令和2年度から福島県南相馬市役所に出向しています。
農水省では、現在でも行われている仕組みの中に、新人研修があります。
私が採用されたころは、地域の農業者宅に1週間泊りがけで農業を学ぶ、というものでした。
お世話になる農業者によって学ぶ類型(畜産だったり耕種だったり)も様々、という具合です。
私がお世話になった農業法人は、柿や甘藷を大規模に生産する法人。
職場(岡山県津山市)の近くの法人でした。
私は平成13年度に農水省(採用地は、岡山にある中国四国農政局)へ入省したのですが、当時、諫早干拓の問題で、九州農政局に漁業者が押し寄せているニュースに驚愕しました。
農林水産業の現場に関わる生産者らは、国の職員に対してとても厳しい目を向けているということを再認識したのです。
そういった背景もあり、私の研修を一つ返事で快諾してくださった農業法人に迷惑をかけられないと思い、たった1週間でしたが必死で働きました。
「国の職員はこんなものか」と思われたくなかったのです。
私は当時26歳。まだ体力もある年齢でしたが、柿や甘藷の栽培規模も大きく、広い畑で効率の良い動き方を知らない私。
使う農業用機械も初めて。甘藷を積んだトラックも積載重量オーバー気味。毎日が楽しく新鮮である一方で、激務で筋肉痛との闘いでした。
経営者目線を垣間見た瞬間。
たった1週間の研修ではあったのですが、必死に働く私の姿を見てくださったのか、2人っきりになった時に、代表の「経営上の」考えをお話ししてくださるようになりました。
印象に残っている話を一つ、紹介します。
この法人にはパートさんが5人くらいいたのですが、この時の代表の話は「休憩時間」についてでした。
代表は「1人でも休憩時間が5分、ズレてしまうと、全体の仕事がこのように非効率になるんだよ。」と図を描いてくださいました。
だからそうならないように、パートさんのシフトや休憩時間、動線まで考えている、と言うのです。小声で。
正直驚きました。経営者というのは、休憩時間だけでもこんなに深く考えているものなんだ、と。
いつも「最適解」を探しているのが経営者というものなんだな、と強く感じたのです。
また、この法人では毎年、みんなで海外旅行に行くそうです。会社負担で。代表の奥様も印象的でした。
台所で食事の準備をしている間はずっと、ラジオでNHKの英会話を勉強しているのです。「去年よりも現地の人としっかりコミュニケーション取りたいからね」と楽しそうでした。
法人として、社員やパートさんが心地よく働ける環境づくりを意識していることも明確でした。
利益の出る経営の力点って、どこだ。
直接、代表と利益の話をしたことはありませんでしたが、きっと利益を毎年のように出されているのだと思います。
福利厚生のしっかりとした内容で雇用もバッチリ。
細かな生産計画をもとに、売れるものを売れるところで売る。
販売は市場とネット直販。
HPはとてもお洒落で、高単価でもお客さんが訪れています。
生産から販売、また雇用面でも最適解で動けている印象を受けました。
一方で、私から見て課題だと感じたのは、後継者が(当時)いなかったこと、そして代表の恐るべきハードワーク。
西城柿という「渋柿」を収穫し、ドライアイスで脱渋したあと、その日の晩にトラックで60km離れた市場に出荷、翌朝戻ってきて、私たちと同じような仕事をしているのです。
いつ寝てるのでしょうか。体が心配です。
また、私がいま改めて感心するのは、所有する農業用機械の「少なさ」です。
この法人にお世話になったのも20年以上前で正確には思い出せませんが、私の視界に入った農業用機械はトラクター1台と市場出荷用のトラック1台。
それだけで柿と甘藷の栽培10haをこなしていました。
米の世界では、150ha以上の規模でもトラクターは1台だけ、というような猛者もいらっしゃいますよね。
経営上のコスト面において、「持たないことのメリット」を私たちはもっと認識すべきなのだと思います。
次に、売り上げについてです。
売り上げアップには、販売量を増やすよりも「単価を上げる」方から取り組んでほしい。
単価を上げても買ってくださるお客様を見つけること。
これは場所を変えるということです。
今まで市場出荷しかしていないのなら、市場で今まで以上の高単価を狙うというのは非現実的。
高単価で買ってくださるお客様がいる「場所」を見つけるのです。
例えば先述の柿農家の場合は、新たにお洒落なHPを開設し、農園の由来や美味しそうな雰囲気、お客様の困りごとに寄り添う姿勢など「高くても買いたくなる理由」が散りばめられています。
商品も多く、ブランデー漬けにして干した柿やチップス状のもの、ドレッシングや柿の葉茶まであります。
それぞれイイ値段で売れています。
販売量を増やすよりも単価を上げる方が先、と私が考えるのも理由があります。
単価を上げられれば、販売量は少なくて済みます。
逆に値下げをしてしまうと、その分たくさん売らなければ現状維持できません。
販売量の増減によって変わってくるものがあります。手間です。
あなたはいつも忙しそうな従業員に対して「半額セールをするから、2倍売ってくれ」と言わなければなりません。できますか?
単価を上げられれば、販売量は少なくて済む。
手間も減るし、必要な資材も減る。
時間がかからない。
空いた時間は、新たな価値創造に充てられます。
従業員も時給が上がる。
いいこと尽くしです。
どうしても値下げせざるを得ない状況になった場合も、以下のように工夫してみませんか。
自社での品ぞろえが3つ。
Aという商品が500円、Bが300円、Cが100円だとしましょう。
Bは売れているが、AとCがイマイチの場合。
Aを400円、Cを80円に値下げしてそれぞれ販売するということは止めて、AとCのセットで480円、という具合にしてほしいのです。
なぜか。
AとCは「売れてない」のです。認識されていません。
ならば割引した際に、AだけでなくCも「知ってもらう」アクションを取ることが必要だからです。
農業「経営」には、人材育成など「人的資源」も重要となってきますが、特に今回は「利益を出してほしい」ことに力点を置きました。
なぜ役場の私が利益にこだわるのか、次回にて触れてみたいと思います。
シリーズ『一人の市役所職員が想う。地域農業のミライ』のその他のコラムはこちら
当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
公開日