前回のコラムで、農業経営において管理指標が重要であることを解説した。管理指標を設定しても、実際に指標を運用して日々の仕事をマネジメントしないと成果にはつながらない。
今回の前編では、管理指標を運用する上でポイントとなる管理サイクルについて考えてみる。
(次回の後編では、適切な管理サイクルで経営と現場を管理して成果につなげた事例をもとに管理サイクルの重要なポイントを解説する)
管理サイクルとは何か?
管理サイクルとは、マネジメントの基本となるPDCA(Plan:計画、Do:実行、Check:評価、Action:改善)を回すサイクルのことである。良い計画を作成し、着実に実行し、成果が出ているか?を評価・確認して、必要に応じて改善するサイクルを構築し、良い期間、タイミングでサイクルを継続的に運用することで、成果創出の最大化と従業員の成長を図っていく。
農業経営において、この管理サイクルがきちんと構築できている生産者は少ない。農業は「計画を立てても、天候や諸条件の変化で、計画どおりにいかない」ことが多かったり、「実行した後に評価確認し振り返って、改善しても、次回も同じ条件になることが少ない」ことから、計画しても意味がないと考え、曖昧な計画で栽培、作業しているケースが多い。また、計画を立てても年に1回や半年に1回、問題が起きた時だけ振り返る程度でマネジメントできていないケースも少なくない。そのため、改善が進まず、最適な作業設計や生産性の管理が推進できていないことが多く、収益性が低下する原因の一つとなっている。
家族で農業経営している段階では、何も言わず、管理を意識しなくても、以心伝心で出来ていたことが、従業員を10人以上雇用し企業的農業経営を志向するようになると、なぜか、農業経営がうまく回らないという声をあちこちで耳にする。 事業規模の拡大に伴い、できていたことができなくなった、ということが発生し、農業経営の大きな課題になっていることが多い。
自社の管理サイクルの運用レベルは、どうだろうか?下の表で確認してみてほしい。
【管理サイクルの運用レベル】
レベル | 状態 |
レベル5 改善体質化 | 管理サイクルが常態化し、管理者と作業者がPDCAの意義を理解し、全員が改善意識を持って行動できている状態。 |
レベル4 マネジメント充実 | 管理サイクルが定着化し、管理者が計画・基準のレベルアップ、実施の徹底、を検討し実施している状態。 |
レベル3 管理サイクル構築 | 適切な管理サイクルを構築し、マネジメントをスタートしている状態。定期的なマネジメントサイクルが運用できている。 |
レベル2 管理スタート | PDCAのサイクルは回しているが、適切なサイクルで管理できていない状態。問題が起きた時に振り返る程度。 |
レベル1 作りっぱなしの計画 | 計画は作るが定期的な振り返りをしないため、レベルアップしない状態。 |
レベル0 無法地帯 | 計画がなく、その日、その状況での指示、後追い対応している状態。 |
目指す姿であるレベル5の改善体質化とは、管理者だけでなく全員がPDCAの意義(なぜ管理する必要があるか?)を理解し、また自分の業務の管理指標は何か?管理指標の目的、狙い、目標値、現状値を把握して、目標値と現状値とのギャップを課題として認識し、改善検討・実行できている、状態のことである。全員が改善を自分ごとと捉え、常に問題意識をもって活動することは難しいことではあるが、管理者が管理サイクルをきちんと運用することで、現場の作業者にも改善意識が定着化し、自然と改善する組織風土が醸成されてくる。まずは、管理指標を設定し、適切な管理サイクルで運用するレベル3、4を目指し、少しづつレベルアップしていくことが重要である。
農業経営者の多くはレベル2の状態がほとんどで、管理していると言うが、実際の運用を確認すると、期初の計画は作成するが、日々の作業指示がメインで、指示通り作業できているか?作業実績を確認し、問題点を抽出して迅速に対応することができていない。期初計画は、あくまでも計画であって、農業はその通りにいかないのが常で、忙しくて、振り返りはしている暇がない、ということを耳にする。これでは、PDCAサイクルを回しているとは言えない。まずは適切な管理サイクルを見極め、定期的に、短い時間でよいので、管理指標をもとに経営者と現場リーダーが数値の計画・目標と実績の確認することからスタートしては、いかがでしょうか?
次回の後編では、管理サイクルを実際に導入し、経営と現場を管理・改善して成果につなげたA社の事例を解説する。
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