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1.「農」と福祉の連携
(1) 農福連携とは
農福連携は、農業と福祉が連携し、農業分野での障害者の活躍を通じて、農業経営の発展とともに障害者の自信や生きがいを創出し、社会参画を促す取組です。近年、各地で様々な取組が盛んになってきています。
この背景にあるのは、働き手の確保や荒廃農地の解消等が課題の農業分野、就労先の不足や工賃、賃金の低さ等が課題の福祉分野の双方が、互いの課題解決と利益の享受を相互の連携に見出した動き(Win-Winの取組)と考えられます(下図表「農福連携のイメージ」参照)。
(2) 様々な農福連携の形
農業現場に広がる農福連携の取組については、次のような様々な形が見られます(2018年度「食料・農業・農村白書」特集3「広がりを見せる農福連携」、農福事例集参照)。
① 農業経営者が障害者雇用を本格化する等直接受入れ
② 就労継続支援事業所等が自ら農業に参入
③ 農業経営者が就労継続支援事業所等に作業を委託し、障害者の施設外就労を受け入れ
④ 民間企業の特例子会社が障害者を雇用して農業に進出
⑤ 都道府県等が障害者の働きやすい環境づくり(ジョブトレーナーの育成等)を推進
⑥ 農業協同組合や市町村の取組(農福連携のマッチング等)
(3) 農福連携の効果
農林水産省調査(2019年3月)によると、農業経営体が農福連携に取組んだことによる効果については、その多くが、「プラスの効果があった」としています。
「受け入れた障害者が貴重な人材となった」が約8割、「労働力確保で営業等の時間が増加した」が約6割、「5年前と比較して年間売上が増加した」が約8割となっています。
また、障害者就労施設が農業活動に取り組んだことによる効果についてみると、約6割が「農産物(加工品)の年間売上高が5年前と比較して上がった」、約8割が「利用者の体力がついて長い時間働けるようになった」、約7割が「過去5年間の賃金・工賃が増加した」、約6割が「利用者の表情が明るくなった」と回答しています。
2.農福連携をめぐる情勢等
(1) 農林漁業での障害者の雇用状況
ハローワークを通じた「農林漁業」への障害者の年間就職件数は、2008年度から2013年度までの5年間で2倍になり、その後1,200件前後の水準で推移しています。
(2) 障害者福祉事業所等における「農」の取組状況
NPO日本セルプセンターが実施した全国の障害者福祉事業所等における農業活動の実態を把握するための調査(2014年3月公表)によると、障害者福祉事業所等のうち、約4割が農業活動に取組み、その取組開始時期はこの10年以内に開始した事業所が多くなっています。農業活動を「やめた」とする事業所は6.0%にとどまっている一方、「今後、農業活動をやりたい」は12.7%あります。生産する農産物の種類では、野菜が多く、米や畜産は少ない実態にあります。
(3) 農福連携推進上の課題
これから新しく障害者雇用等に取り組む一般農業法人等の課題としては、「障害者に適した業務の特定や開発」、「障害者の事故や怪我」、「障害者のための環境整備等」の不安や心配を挙げる法人が少なくありません。また、「障害者雇用の支援制度に関する情報」や「障害者が行う農業技術に関する情報」等を情報が望まれています。
一方、農業活動に新しく取組む障害者福祉事業所等の課題をみると、前述の日本セルプセンター調査で、農業活動に取組んでいない事業所が取組まない理由の多い順に、「農業の知識・技術がない」、「農地を確保することがむずかしい」、「人手が足りない」等となっています。また、今後農業活動をやりたいとする事業所は、取組み開始時の課題として、「農業技術の習得」、「農業技術のある指導員、人材の確保」、「農地の確保」をあげています。安定して生産と一定品質の生産ができる農業技術の習得、販路の確保、農地の確保等が望まれています。
3.農福推進の一層の連携に向けて
(1)障害者福祉事業所等による農地の確保
障害者福祉事業所等が農地を確保するにあたっては、前述の調査結果によると、法人関係者に相談・紹介して確保した、法人が所有する土地の一部を利用したとの回答が多いですが、今後、地域との関係が深まる中で、地域の農家や農業法人等から借りて欲しいというケースも増えると思います。さらに、事業所が経営規模を拡大する場合には一般農地の取得が必要となることも考えられます。
一般に、社会福祉法人が貸借(注)で農地を確保するには、次の3つの方法があります。市町村、農業委員会等への問い合わせ、参入希望先の機構HPなどにより、法人にとって最良の農地利用方式を選択しましょう。
① 農地法の許可を受ける方法
② 農業経営基盤強化法に基づく市町村が定める「農用地利用集積計画」により権利を取得する方法
③ 農地中間管理事業法(2013年)に基づき、借り手の公募に応募し、農地中間管理機構から権利を取得する方法
(参照:「農地の取得_企業の農業参入」)。なお、農地情報の入手については、「全国農地ナビ(全国農業会議所)」が活用できます。
(注)非営利の福祉活動目的であれば社会福祉法人による農地の購入(所有)が可能な場合もあります。他方、農地の権利を取得せず、気軽に農作業に親しむ、触れ合うのが目的であれば、開設者に利用料を払って農作業をすることが可能な体験農園の利用が適しています(参照:農地の活用_市民農園、貸農園、体験農園)。
(2) 障害者雇用に新しく取り組む農業側の対応
障害者雇用に新しく取り組む農業側の対応としては、出来ることから始めることが重要となります。
農業現場においては、前述のように、農福連携に「踏み出しにくい」状況として、どうやって始めてよいか分からない、福祉の側のことを良く知らない、受入などに手間と費用がかかるのではないか等があります。
こうした不安の解消には、農業サイド・福祉サイド双方の自治体などによる支援、協力を得つつ、お互いを理解し、良好な関係を徐々に作り上げるなど、段階を踏んで取組を実施することが現実的な対応と考えられます。
(例)
【最初の段階】(お互いの理解を深める段階)
農作業体験や職場実習などの受け入れ
【次の段階】(障害者就労施設などに農作業を委託する場合)
障害者の正規雇用に不安がある場合や繁忙期などに仕事を依頼した場合向けの対応です。
障害者就労施設との間で農作業請負契約(施設外就労)を締結します。本契約に際しては自治体の福祉事務所の助言を受けながら、双方が条件等を相談して決めこととなります。
施設外就労を始めるには、① 施設と農家・農業法人等が直接、調整する方法のほか、② 市町村の障害福祉担当者に障害福祉施設を紹介してもらう方法、③ 地域の共同受注窓口と相談しながら進める方法などがあります。
【最終段階】(農業者が障害者を直接雇用する段階)
農業者が障害者を直接雇用し、作業指示や労務管理などを自ら行うものです。この段階に進む事前準備としては、任せる仕事や求める人材の明確化、障害者とのコミュニケーション術の習得、職場の受入環境の整備などが重要です。
求人については、ハローワークでの公募以外にも様々な方法があります。試用期間を経て問題なければ、正式採用となります。
この段階の発展・成功事例としては、毎年1名以上の障害者を雇用している経営体(従業員100人中、障害者は25名(2019年4月))で、障害者の視点で農作業の体制を整備(作業の分解、器具の工夫、作業指示の具体・明確化)した結果、作業効率化が進み、経営規模と生産性が拡大した経営(京丸園 浜松)が良く知られています。
(3) 農林水産省による主要な支援措置
農家(農業法人)、社会福祉法人、民間企業等は農林水産省による支援事業を利用することが可能です。
支援事業には、農福連携に係る施設整備事業(ハード対策)及び農福連携支援事業(ソフト対策)の2種類があり、それぞれに交付金(「農山漁村振興交付金」(うち農福連携対策))が支給されます。その概要は、次の通りです。
① 農福連携整備事業
障害者の受入れ環境を整備するための支援で、農業生産施設※(ハウス等)、加工・販売施設※、関連施設(休憩所、トイレ、農機具庫等)の整備を支援します。事業期間:2年以内、交付率等:1/2 以内、交付金の上限は、2,500万円です。
※ 農業生産施設には、農園,園路の整備を含む。加工・販売施設は、事業主体及び連携する者が生産したものが過半を占めることが必要。
② 農福連携支援事業 (原則、①の整備事業と併せ行うこと)
障害者等の生産技術、加工技術の習得のための研修、分業体制の構築・作業マニュアル作成、先進的な団体の視察等を支援します。事業期間:2年以内、交付率等:定額(上限150万円等)
[詳細については、農水省HPで「農山漁村振興交付金」(うち農福連携対策)に当たって下さい]
(注)厚生労働省にも、農福連携推進の支援措置がありますので、参照のこと。
(4) 推進・支援のその他の取組
① 農福連携推進ビジョンの決定
農福連携を今後強力に推進していく方策を検討するため、省庁横断の会議として、「農福連携推進会議」(議長:内閣官房長官、副議長:厚生労働大臣、農林水産大臣、構成員:間係省庁局長、有識者)が開催されています。
2019年6月4日開催の第2回会議で、今後の推進の方向性を内容とする「農福連携等推進ビジョン」が取りまとめられました。このビジョンでは、2024年度までに、農福連携に取り組む主体を新たに3,000創出することを目標に、農福連携を全国に広く展開するためのアクション(認知度の向上、取組の促進、取組の輪の拡大)が決定されています。
② 農福連携の現場を側面から支援する動き
地方農政局等の単位で農業分野における障害者雇用促進ネットワーク(協議会)が設立されています。行政、福祉、農業等の関係者で構成され、全国で展開する優良事例の紹介、セミナーの開催等の活動を行っています。
また、2018年11月に設立された一般社団法人日本農福連携協会は、セミナー、農福連携商品を紹介・販売するマルシェやオンラインショップの開催、開設等を行っています。
③ 新JAS(ノウフクJAS)の制定(2019年3月)
障害者が主要な生産工程に携わり、生産した農林水産物等を対象に新たに「ノウフクJAS」が制定されました。2020年3月までに、10事業者が認証を受けています。「ノウフクJAS」は障害者が携った食品への信頼性を高め、農福連携で生産された農畜産物等の販路の確保・拡大につながることが期待されます。
当該コンテンツは、「一般社団法人 全国農業会議所」の分析に基づき作成されています。