(一社) 農業利益創造研究所 理事長 平石 武
はじめに
「農業利益創造研究所」は、農業簿記ソフトのトップメーカーである「ソリマチ株式会社」から、統計利用を承諾してもらった会計ビッグデータを提供してもらい、「データ分析による所得向上の気づき」を情報発信しています。
このコラムでは、2021年の13,300件の個人事業農家データを集計した分析を行っていますので、農業者の方はご自分の経営と比較しながらご覧ください。
農業資材等の物価が上昇している
昨年から農業資材、燃料、飼料等の価格が高騰しています。これは、世界人口の増加や新興国の経済発展による需要増の構造的な問題と、原油価格の値上げ、円安、ウクライナ情勢などの国際的問題が重なっており、このままでは今後農業経営に大きな影響を与える可能性があります。
農林水産省の「農業物価統計調査」によると、2015年を100とした場合の農業物価指数は以下のグラフの通りです。
2015年から2020年まで動力光熱以外はほとんど変化が無かったのですが 、2021年から徐々に上昇し、2022年3月の指数は、肥料は109.5、飼料は119.8、動力光熱は126.5と高騰しています。海外から輸入している飼料や石油は、価格高騰+円安のダブルパンチなのでしょう。
2021年は2020年と比較して経営にどのような変化があったのか、そして、2020年から2022/3月までの物価指数アップ率は以下の通りですので、このアップ率に基づいて2022年の農業経営はどうなっていくと予想できるのか調べてみたいと思います。
物価上昇が全国の農家へ及ぼす影響
以下の表のように、すでに物価上昇が始まっていた2021年は2020年と比較して、4費用の農家一戸当り全国平均の合計は16.5万円増加していました。しかし、2021年は雑収入(補助金等含む)が増加し、結果として収入金額が増えており、経費が増えても農業所得の変化はありませんでした。
2021年はすでに物価上昇が始まっていましたので、2020年をベースとして2022年3月までの物価上昇アップ率をもとに2022年の経営を試算すると、4費用の合計がなんと78万円もアップし、農業所得が273万円という計算になります。これは22%ダウンですからかなり農業経営を直撃すると予想できます。
営農類型ごとの物価上昇が農業経営へ及ぼす影響
それでは次に、普通作経営(米+麦・大豆)について、2022年の経営を試算してみました。
4費用の上昇により、農業所得が42.4万円減少する予想ですが、よく見ると2021年の農業所得は300万円であり2020年より69万円も減少していました。おそらく米の価格が下がったことにより収入金額が減り、所得も減ったと思われます。
2022年も米価が下がるとさらに農業所得がダウンする可能性があります。
■野菜経営
野菜経営も普通作と同じように、肥料費と動力光熱費の費用が増加して農業所得の減少となっています。それから、意外と農薬費の増加は少ないことがわかります。
■果樹経営
果樹経営は、普通作や野菜よりもともと農業資材や動力光熱費が少ないので、影響はあまり大きくありません。
■酪農経営
酪農経営が大変なことになりそうです。農家一戸当たりの飼料費平均額が2千万円以上(経営費全体の46%を占めている)と高額ですから飼料費の高騰が経営に大きく響いて、農業所得は590万円ダウンのほぼ0円です。
■肉用牛経営
肉用牛も飼料費が1千万円かかっていますので影響は大きくて、農業所得は250万円減少の91万でありこの農業所得額では生活していけません。
これらをまとめると、以下のグラフのようになります。あきらかに飼料費が問題であり、穀物飼料の約7割を輸入に頼っている状況では明るい見通しは立ちません。ちなみに経営費に対する飼料費の割合は、北海道地域は36%、本州地域では50%です。
北海道は広い土地を生かして飼料を自給していると思われますが、本州の畜産は飼料用米を活用するなどという検討が必要となってくるでしょう。
まとめ
農業所得の減少は、農家数の減少や新規就農者の減少につながりますので、これらの物価高騰は今後の日本農業にボディブローのように効いてくるかもしれません。
飼料や資材、燃料の高騰に対する対策は2つ考えられるのではないでしょうか。
まず1つは農家側の対応であり、肥料については堆肥による有機質肥料の活用やスマート農業による適切な施肥量投下、そして温室施設のち密な温度管理、自給飼料の生産拡大や飼料用米などの活用が有効です。
もう一つの対策は、資材費高騰に対する個人的努力には限界があるため、JAでの資材価格の低下努力や政府による政策的な交付金など、関係機関の支援が望まれます。
世界情勢が不安定な時こそ一番大事なことは国内の食料自給力です。日本農業をみんなで支えていきたいものです。
参考資料へのリンク
農林水産省 「農業物価統計調査」 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noubukka/
当該コンテンツは、一般社団法人 農業利益創造研究所の分析に基づき作成されています。
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当該コンテンツは、担当コンサルタントの分析・調査に基づき作成されています。
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