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社会保障制度と労働・社会保険
下図は、日本の社会保障制度を表したものです。広義の社会保険とは、すべての国民を対象として、その所得能力を失った場合に生活の最低限を保障し、生活の安定を確保しようとするものです。
社会保険は、保険給付の原因となる事由によって、狭義の社会保険(医療保険と年金保険)と労働保険(労災保険と雇用保険)に分けることができます。これから「社会保険」という場合、健康保険・厚生年金保険等の狭義の社会保険を指します。
公的保険と民間保険
労働保険や社会保険は政府や公的機関が管掌しているので公的保険といいます。これに対し、民間の生命保険会社や損害保険会社が販売している保険を私的保険といいます。私的保険は、購入(加入)するしないは、まったくの自由ですが、公的保険は、一定の条件に該当すれば、加入が義務づけられています。
国民年金を例に挙げれば、大学生の身分であっても、日本に住所を有する限り20歳になれば黙っていても被保険者(第1号被保険者)となり、本人に保険料の支払義務が生じます。
労働保険と社会保険
公的保険である労働保険と社会保険の管轄の主務官庁は、どちらも厚生労働省です。
労働保険とは、労働者災害補償保険(労災保険)と雇用保険のことをいい、社会保険は、健康保険、厚生年金保険、国民健康保険、国民年金等のことをいいます。
通常、民間会社等の法人が従業員を雇った場合に加入しなければならない労働・社会保険は、労災保険・雇用保険・健康保険・厚生年金保険の4種類の公的保険です。
- 労災保険は、従業員の業務上及び通勤途上の負傷、疾病、障害、死亡等に対して必要な保険給付を行うことを主な目的としています。
- 雇用保険は、従業員が失業した場合に必要な給付を行うことを主な目的としています。また、育児休業・介護休業の期間中も一定の金銭給付を受けることができます。
- 健康保険は、従業員とその家族が病気やけがをした場合の医療の給付、従業員が病気やケガで休業したときの所得の補償、出産や死亡したときの費用の軽減などを主な目的としています。
- 厚生年金保険は、老齢になったときの老齢厚生年金のほか、病気やけががもとで障害を負い働けなくなったときには障害厚生年金が、死亡したときには家族に遺族厚生年金が支給されます。
主な公的保険の種類
労 働 保 険 | 社 会 保 険 | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
保険種類 | 労災保険 | 雇用保険 | 健康保険 | 厚生年金保険 | 国民健康保険 | 国民年金 | |||
対 象 | 労働者 | 法人の事業主と労働者 | 個人事業の事業主と労働者 | ||||||
保険者 | 政 府 | 全国健康保険協会 | 健康保険組合 | 政 府 | 市町村 | 国民健康保険組合 | 政 府 | ||
窓 口 | 労働基準監督署 | 公共職業安定所 | 全国健康保険協会 | 健康保険組合 | 年金事務所 | 市町村 | 国民健康保険組合 | 市町村 | |
保険事故 | 業務上及び通勤途上の病気・けが・死亡 | 失業など | 業務外の病気・けが・死亡・分娩 | 老 齢障 害死 亡 | 病気・けが・死亡・分娩 | 老 齢障 害死 亡 | |||
給 付 | 療養(補償)給付休業(補償)給付障害(補償)給付遺族(補償)給付傷病(補償)年金介護(補償)給付など | 求職者給付・基本手当等就職促進給付・再就職手当等など | 傷病給付・療養の給付・療養費・傷病手当金・高額療養費等出産給付・出産育児一時金・出産手当死亡給付・埋葬料等 など | 老齢厚生年金障害厚生年金遺族厚生年金など | 傷病給付・療養の給付・療養費・高額療養費等出産給付・出産育児一時金死亡給付・埋葬費 など | 老齢基礎年金障害基礎年金遺族基礎年金など | |||
保険料の負担者 | 事業主 | 事業主と被保険者(労使で負担) | 被保険者(全額自己負担) |
農業の労働保険の適用
農業の労働者の労働保険の適用について、個人経営の場合は、労働者が常時5人未満の場合には、「暫定任意適用事業」といって、原則として任意加入となっています。労働者が常時5人以上いる個人事業と法人事業は、労働保険は強制適用です。
農業の労働者の労働保険(労災保険・雇用保険)の適用
個人事業 | 法人事業 | ||||
---|---|---|---|---|---|
労働者常時5人未満 | 労働者常時5人以上 | ||||
労災保険 | 雇用保険 | 労災保険 | 雇用保険 | 労災保険 | 雇用保険 |
任意適用ただし、一定の危険又は有害な作業を主として行う事業と事業主が特別加入している事業※は強制適用 | 任意適用 | 強制適用 |
※原則として事業主は、労災保険の適用を受けませんが、農業においては、事業主が加入できる「特別加入制度」があります。個人経営の事業主が「特別加入制度」を利用する場合には、その事業所は強制適用となり、この場合、労働者は労災保険が強制適用されることになる。
農業の社会保険の適用
農業の労働者の社会保険の適用について、大きく個人経営の事業と法人経営の事業に分けると個人経営の場合は、国民健康保険と国民年金に加入し、法人経営の場合は、健康保険と厚生年金に加入することになります。
農業の労働者の社会保険(医療保険・公的年金)の適用
個人事業 | 法人事業 | ||
---|---|---|---|
医療保険 | 公的年金 | 医療保険 | 公的年金 |
国民健康保険ただし、事業所で使用される者の2分の1以上の同意及び厚生労働大臣の認可があれば健康保険が適用される。 | 国民年金ただし、事業所で使用される者の2分の1以上の同意及び社会保険庁長官の認可があれば厚生年金が適用される | 健康保険 | 厚生年金 |
パートタイム労働者等の労働・社会保険
短時間就労者(パートタイム労働者等)や高齢者等の労働・社会保険の扱いは下表のようになります。(労働・社会保険の適用事業所であることを前提としています)。
労災保険 | 雇 用 保 険 | 健康保険・厚生年金保険 | |
---|---|---|---|
パートタイム労働者等 | すべて労働者として対象となる。 | 次のいずれにも該当する者で、その者の労働時間、その他の労働条件が就業規則、雇用契約書等において明確に定められている場合は、被保険者となる。①1週間の所定労働時間が20時間以上②反復継続して就労する者(31日以上継続して雇用されることが見込まれる者) | 1日または1週間の労働時間及び1か月の労働日数が、同業の業務に従事する通常の従業員の概ね4分の3以上ある場合は、被保険者となる。(2か月以内の期間を定めて雇用されるものを除く) |
高齢者 | 被保険者となる | 被保険者となる。ただし、70歳以上の者は、原則として厚生年金保険には入らず、健康保険のみ加入する。75歳以上の者は、健康保険も被保険者とならない。 | |
昼 間学 生 | 原則として被保険者とならない。ただし、次の者は被保険者となる。①卒業見込証明書を有する者であって、卒業前に就職し、卒業後も引き続き当該事業に勤務する予定の者②休学中又は一定の出席日数を課程修了の要件としない学校に在学する者(学校の証明書がある場合に限る)であって、当該事業において同種の業務に従事する通常の労働者と同様に勤務し得ると認められる者 | 1日または1週間の労働時間及び1か月の労働日数が、同業の業務に従事する通常の従業員の概ね4分の3以上ある場合は、被保険者となる。(2か月以内の期間を定めて雇用されるものを除く) | |
派遣労働者 | 登録派遣労働者については、同一の派遣元において、次のいずれかにも該当する者については、派遣元で被保険者となる。①1週間の所定労働時間が20時間以上②反復継続して派遣就業する者(31日以上継続して同一派遣元に雇用されることが見込まれる者等) | 1日または1週間の労働時間及び1か月の労働日数が、同業の業務に従事する通常の従業員の概ね4分の3以上ある場合は、派遣元で被保険者となる。(2か月以内の期間を定めて雇用されるものを除く) |
健康保険と厚生年金保険の適用除外者
「臨時で使用される者」及び「季節的業務に使用される者」は、農業法人等の社会保険の適用事業所で使用される場合であっても健康保険と厚生年金保険の適用が除外されます。
イ 臨時に使用される者
1 2か月以内の期間を定めて使用される者
ただし、その期間を超えて引き続き使用されるに至ったときは、被保険者となります。たとえば、2か月の契約で雇用された者が、2か月を過ぎて引き続き雇用されるときは、そのときから被保険者となります。
2 日々雇い入れられる者
ただし、1か月を超えて引き続き使用されるに至ったときは、そのときから被保険者になります。
ロ 季節的業務に使用される者
季節的業務というのは、製茶等の季節によってなされる業務をいいます。
ただし、はじめから4か月を超えて使用される予定の者は、当初から被保険者になります。
労働保険と社会保険の保険料の負担
労働保険と社会保険の保険料の負担は、次のようになります。
- 労災保険は、保険料の全額を事業主が負担
- 雇用保険・健康保険(介護保険)・厚生年金保険は、労使で負担
- 国民健康保険と国民年金の保険料は、全額自己負担
労災保険のみが保険料の全額を事業主が負担し、他は労使で負担します。保険給付は、事業主・従業員からの保険料でまかなわれているわけですが、保険の運営に要する事業費・人件費等は国が負担していますし、保険給付にかかる財源の一部も国から補助金が出ています。労働・社会保険が公的保険といわれる理由です。
労働保険・社会保険の保険料率(令和5年10月現在)
保 険 | 全 体 | 事業主負担 | 従業員負担 |
---|---|---|---|
労災保険(農業) | 13.0/1000 | 13.0/1000 | なし |
雇用保険(農業一般)(造園業などの園芸サービス) | 17.5/1000(15.5/1000) | 10.5/1000(9.5/1000) | 7/1000(6/1000) |
健康保険(都道府県毎に異なる)<全国平均> | 100/1000 | 50/1000 | 50/1000 |
介護保険(※1) | 18.2/1000 | 9.1/1000 | 9.1/1000 |
厚生年金保険 | 183.00/1000(※2) | 91.5/1000 | 91.5/1000 |
※1)40歳以上65歳未満の従業員にのみ対象となる。
※2)厚生年金の適用事業所は、児童手当法によって、事業所に児童手当を受ける者がいる、いないに係らず、事業主は児童手当の拠出金を納付しなければならない。これは、全額事業主負担で、拠出金額は、厚生年金保険の被保険者の標準報酬月額の総計に拠出金率3.6/1,000をかけた額である。
保険料の計算例
月額給与が20万円(標準報酬月額20万円)の従業員(介護保険料の負担なし)の労働保険と社会保険の保険料は下のようになります。(健康保険料率は全国平均で計算)
労災保険 | 雇用保険 | 健康保険 | 厚生年金 | 児童手当 | 合 計 | |
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事業主負担 | 2,600円 | 2,100円 | 10,000円 | 18,300円 | 720円 | 33,720円 |
従業員負担 | 負担なし | 1,400円 | 10,000円 | 18,300円 | 負担なし | 29,700円 |
合 計 | 2,600円 | 3,500円 | 20,000円 | 36,600円 | 720円 | 63,420円 |
当該コンテンツは、「キリン社会保険労務士事務所」の分析・調査に基づき作成されております。