地域活性化と農業

1.農業は地域産業のハブになれる

農業をはじめとする第1次産業(農林水産業)は、その地域の自然・気候・風土に深く根付いたものです。

とくに農業は、大規模な施設園芸や植物工場などを除いて、取り扱う農作物の育成・栽培条件が、地域の自然・気候・風土に適合していなければ、生産できない産業です。この地域性こそが、地域の農林水産物の「差別化」の源泉になっています。地域性に基づく差別化は、技術による差別化と異なり、「模倣困難性」を持ちます。

特に農業と地域の結びつきは、土壌や水の成分といった環境条件、日照時間や気温といった気候条件が背景にあるため、生産物を品質等も含めて全く同じように模倣することは難しいことがあげられます。

また、法的な保護や制限、認定基準も必要にはなりますが、原産地呼称や地域ブランドを使った差別化も、他の地域や国ではその地域名を名乗ることができないため、強い模倣困難性を持ちます。この農業と地域の結びつきによる差別化は、地域産業の競争力を考える上で非常に重要です。

工業と地域の結びつきを考えた場合、一部にトヨタや日立といった地名になるような深さで関係性が存在するケースもあるものの、基本的には生産の中では地域性を排除するため、農業と地域の結びつきと比べて、工業と地域の結びつきは弱く、強力な差別化にはなりにくいのです。

したがって、農業経営者には、地域との強い結びつきのなかで、地域産業の競争力向上をリードする「地域のコーディネーター」としての役割が期待されています。地域農業と地域のコラボレーション・連携によって、農業経営者のビジネスがさらに加速し、地域の活性化にもつながっていくのです(下図)。

2.地域内での新たなビジネス機会の発見

地域とのコラボレーション・連携については、視野を広げて考えることが重要です。地域内の小売業や食品メーカー、レストランやホテルとの連携などのほか、学校や病院などの機関とも連携できる可能性があります。

行政・学校との連携

食育イベントの実施

幼稚園や小学校の芋堀り体験や農業体験学習の受け入れなど。子供に対応することで、親を顧客にすることも可能です。

農業を軸とした地域活性イベントの実施

農業を中心においた行政イベント等と連携することで、新しい取り組みを行っていくことができます。

病院・福祉法人との連携

病院、介護施設への食材供給

病院や介護施設や、そこで調理を行っている給食会社等に営業をかけ、商品を供給。地産地消などをテーマに営業をかけることが有効である可能性があります。

農業体験による健康増進、ヘルスケア

農業の多面的価値を訴求する意味で、体験型農業の促進による健康増進、ヘルスケア訴求なども有効です。

(例)老人ホーム等のレクリエーション向けに「いちご狩り」を展開している生産者は、イチゴの生産棚の高さや棚間の通路幅を車いすに合わせてハウスを設計しています。当該ハウスは、シーズン前の段階で多くの施設の予約で全日程が埋まるほどの人気を博しています。

産学連携(地元大学、高校等との連携)

学生との共同イベントの開催

地元の農業高校や大学等と連携した実証実験やイベントの実施。新技術などの生産現場での実証だけではなく、加工や販売部分での連携も最近は増えています。(例)栄養学を学ぶ学生と連携した6次加工品の開発と販売など。

新技術の開発による差別化(殺菌方法、生産管理システム)

大学や地元の研究機関と連携した新しいIoTシステム、生産管理システム、ドローン等の新技術、殺菌方法や包材などの開発などを進めている生産者も多くいます。新しい技術は差別化に活用できます。

農業試験場や農大連携での新品種の開発、栽培方法の確立

地元の農業試験場や大学等と連携して、新品種や新しい栽培方法の開発、それに合わせたブランディングを行っていくことも有効です。特にコメなどは新品種競争が加速しています。

3.地域との連携を深めていくために

上記のような取り組みを行っていくためには、地域住民や地域の事業者、行政等とのつながりを強くしていく必要があります。では、どうすれば地域との繋がりを強くすることができるでしょうか? 以下にいくつかの方法を示します。

商工会議所や商工会に加入する(イベントや会合にも参加する)

地域の商工業者等とのネットワークを作るうえで、商工会などは非常に有用です。農業生産者であっても多くの場合、問題なく参加できます。青色申告や経営のサポートを受けられることもありますので、商業系の団体へも積極的に参加してみましょう。

消防団や青年会議所などの取り組みに参加する

若手生産者が、近い年代の地元での人的ネットワークを構築するうえで、消防団や青年会議所も非常に有用です。人間関係が大変な部分もありますが、可能であれば参加することが望ましいと言えます。

行政のセミナーや説明会に積極的に参加する

行政との連携を図っていく場合など、積極的に役所が主催する説明会やセミナーに参加してみましょう。そこで担当者と名刺交換などを行い、その場でも、後日改めて訪問してでも、自分の考えていることなどを話し、行政と連動できないか確認してみるのです。補助金の有無なども合わせて確認できます。

(例)農福連携をしたいと思い、市で実施していた農福連携セミナーに参加した結果、補助金の案内をもらえた他、市内の介護事業者を紹介してもらえた。

アンテナを張り巡らせ、素早くアクションする

自身の興味関心のあるテーマに関するアンテナを張り巡らせ、チャンスがあればフットワーク軽くアクションすることが重要です。

例えば、新聞を読んでいて、地元の大学で新しい技術を開発していて、今後、実証していくといった記事を見つけたら、その大学の先生にコンタクトして一緒に何かできないか聞いてみるといったアクションです。

以上、地域とのかかわりを深めていくためには、人的なネットワークがつながる(つながりそう)な場所に積極的に関わっていくことが重要です。農閑期などを利用して、遠慮することなく、地域の様々な会合やイベントに参加してみましょう。

当該コンテンツは、公益財団法人 流通経済研究所 農業・地域振興研究開発室 折笠室長の分析に基づき作成されています。

あなたにおすすめの基礎知識