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1.農地所有適格法人(農地を所有できる法人)
農地所有適格法人は、農地を所有できる法人です。また、農地を借りることも可能です。法人が所有権を含む農地の権利取得により農業経営を行うには、農地所有適格法人を設立する必要があります。
<農地所有適格法人の要件>
農地法に基づく次の要件のすべてを満たさなければなりません。
① 法人形態要件
株式会社(株式の譲渡制限があるものに限る)、農事組合法人、持分会社
② 事業要件
主たる事業が農業※(自ら生産した農産物の加工、販売等の関連事業を含む)
※その判断は、法人が新規就農する場合は、今後3箇年の売上高の見込みによる。
③ 議決権要件
農業関係者※1が議決権の過半を占めること
※1 農業関係者とは、法人の行う農業に常時従事(原則年間150日以上)する個人、法人に農地の権利を移転した個人等。
農業関係者以外の構成員の保有できる議決権は、総議決権の2分の1未満に限られますが、その構成員の範囲にはしばりはありません。出資については、原則として、当該法人に出資する法人は、農業関係者に含まれません(=総議決権の2分の1以上の出資は不可)※2
※2 議決権要件の特例
次の場合には、親会社(法人)が、子会社の総議決権の2分の1以上出資することも可能となります。子会社が農業経営改善計画に、親会社(農地所有適格法人に限る)からの出資に関する事項を記載し、市町村の認定を受けた場合、子会社の農業関係者の議決権割合としてカウントされる。
④ 役員要件
次のいずれにも該当すること
ア 役員(取締役、業務執行役員、理事)の過半が法人の行う農業に常時従事する構成員(原則150日以上)であること※
イ 役員又は重要な使用人(農場長等)の1人以上が法人の行う農業に必要な農作業に従事(原則年間60日以上)すること
※ 次の場合には役員要件の特例があります。
認定農業者である親会社の役員を子会社の役員と兼務させる場合、一定の要件を満たした上で、子会社が農業経営改善計画を作成し、市町村の認定を受けた場合、当該計画に記載された兼務役員は、子会社の農業常時従事する役員と同様に取り扱われる。
〔要件〕
・親会社が子会社の総議決権の過半を有していること
・親会社が認定農業者かつ農地所有適格法人であること
・兼務役員が親会社の行う農業の常時従事者かつ親会社の株主であること
・兼務役員が子会社の行う農業に年間30日以上従事すること(構成員(株主)であることは求めない。)
2.農地の権利(所有権、賃借権)取得
(1) 農地法の許可を受ける方法
<農地を取得するための要件>
法人が次の基本的な要件(個人と共通)を備え、かつ農地所有適格法人の要件(前述)を満たせば、所有権を含む農地の権利取得について農業委員会等の許可の対象となります。
① 農地のすべてを効率的に利用すること
② 一定の面積を経営すること(農地取得後の農地面積の合計が、原則50a(北海道は2ha)以上であることが必要
(新規就農(1)③※1、※2を参照)
③ 周辺の農地利用に支障を与えない利用方法であること
<農業委員会への許可申請>
原則、売主(貸主)との共同申請が基本となります。申請書等の記載では、前述の基本的要件関係事項と合わせ、農地所有適格法人要件関係として、構成員全ての状況等を具体的に明らかにする必要があります。
(2) 経営基盤法に基づく「農用地利用集積計画」により権利を取得する方法(農地制度の概要 2の(注)を参照のこと)
経営基盤法に基づき、市町村が作成する農用地利用集積計画において、個々の権利移動をまとめ、公告により一挙に利用権設定等の効果を生じさせるものです。この場合、農地法の許可は要しません。
<農用地利用集積計画の要件>
① 計画内容が市町村基本構想に適合すること
② 利用権の設定等を受ける者が次に掲げる要件の全てを備えること(「農地所有適格法人」にあっては、アに掲げる要件)※
ア 農用地の全てを効率的に利用すること
イ 農作業に常時従事すること
③ 利用権の設定等をする土地について、原則権利関係者すべての同意を得ていること
※農地法に規定する下限面積要件は適用されていないので、下限面積を満たす必要はありません。
<利用権設定等の申し出>
市町村へ利用権設定等を申し出る必要があります。※申し出は、所定の申出書(農地所有適格法人用)のほかに、新規就農計画書などを市町村に提出することにより行います。計画作成可否の判断は市町村が行い、当事者に農用地利用集積計画の作成を請求する権利は与えられていません。審査では、前述の要件を満たしているかがポイントとなります。関係書類の記載に当たっては、申し出者(受け手)が農地所有適格法人であること、農地を効率的に利用する者であることを具体的に明らかにする必要があります。
市町村が、農業委員会の決定を経て、農用地利用集積計画を作成し、これを公告した翌日から権利が設定されます。
※ 市町村は、現在、利用権の設定等を希望する者に対しては、極力(3)の農地バンクの活用を勧奨するよう指導されています。
(3) 中間管理事業法に基づき農地バンクから権利を取得する方法
農地バンク(農地制度の概要(4)を参照)は、農地の出し手から農地を一度借受け、担い手にまとまった農地を貸付け(転貸)することを任務としています。
農地バンクから農地を借り受けるためには、農地バンクが実施する借受け希望者の公募に応募して、借受け希望者として登録、公表されていることが必要です。
農地バンクは、通年で受け手希望者を公募しています。応募者の中から、出し手とのマッチングを行い、「貸付けルール」に基づき、最も適当な借り手を選定し、農用地利用配分計画を作成します。
都道府県知事の認可、公告により、配分計画の定めるところにより権利が設定されます。農地法の許可は不要で、出し手との個別交渉の必要はありません。
農地所有適格法人を設立し農業参入を計画中の法人や、出し手との個別交渉による農地調達の目処がついていない場合には、農地バンクによる借り手公募に応募することも現実的な一案と考えられます。
応募に当たっては、次の事項等を明らかにした申込書を提出します。
① 借受けを希望する農用地等の種別、面積、農用地等の条件
② 借受けた農用地等に作付けしようとする作物の種別
③ 借受けを希望する期間
④ 現在の農業経営の状況
⑤ 当該区域で農用地等を借受けしようとする理由
上記(1)〜(3)のとおり、農地取得の3つの方法にはそれぞれ特徴があります。参入希望先の都道府県、同農地バンク、市町村、同農業委員会等に問い合わせするなどにより、法人にとって最良の方法を選択しましょう。
(参考)農地所有適格法人数の農業参入の動向
農地を利用して農業経営を行う農地所有適格法人は、2020年1月1日現在1万9,550法人となっています。
法人形態別の割合は、株式会社(38%)、特例有限会社(31%)、農事組合法人(28%)等です。2009年の農地法改正により、株式会社が認められたこともあり、総数は改正前の約2倍に増加しています。
主たる営農類型別の農地所有適格法人数は、米麦作8,669法人(44%)、そ菜3,624法人(19%)、畜産3,267法人(17%)、果樹1,321法人(7%)などです。一方、株式会社では、そ菜を主たる作目とするものが多くなっています。農地所有適格法人の総経営面積は54万3,614haです。
当該コンテンツは、「一般社団法人 全国農業会議所」の分析に基づき作成されています。